尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

桜井昌司さんの逝去を悼むー冤罪「布川事件」と闘い続けて

2023年08月23日 22時54分44秒 |  〃 (冤罪・死刑)
 桜井昌司さんが8月23日に亡くなった。76歳。死因は直腸ガンである。僕は遠からずこのような知らせを聞くだろうと覚悟していた。本人がガンで闘病していることを公表していたからである。桜井さんのブログ『獄外記』は8月13日以来更新されていなかったから、全国には心配していた人がきっとたくさんいただろう。
(桜井昌司さん)
 桜井さんは冤罪「布川(ふかわ)事件」で無期懲役判決が確定しながら、無罪を訴え続けた人である。ここでは事件内容については触れないことにする。基本情報だけ書くと、1967年に茨城県布川町で起きた強盗殺人事件で、桜井さんと杉山卓男(たかお)さんが逮捕された。無実を訴えたものの、1978年に最高裁で無期懲役が確定。1996年に仮釈放で出所するまで29年間服役した。獄中から訴えた第1回再審請求は棄却されたが、2001年に第2次再審請求を行い、2005年に水戸地裁土浦支部が再審開始を決定した。検察側は高裁、最高裁と争ったものの、2009年に再審開始が確定し、2011年5月に無罪判決が出たわけである。

 僕は桜井さんの話を冤罪関係の集会や桜井さんが出た映画などで何度も聞いている。しかし、それ以上にかつての勤務高校で、学校設置科目「人権」の特別講師をお願いしたことが思い出深い。僕は昔から冤罪問題に関わりがあったので、授業でも是非取り上げたいと思ったが、では誰を呼べば良いだろう? 弁護士や支援者ではなく、出来る限り「当事者」を呼びたい。いろいろと当たった後で、桜井さんはどうかなと思って、支援組織に連絡先を聞こうと電話した。そうしたら、そこに桜井さんがいて、すぐに快諾してくれたのである。その時の話はとても素晴らしかった。

 「事件」の説明をして、「冤罪」について考えさせるだけではなかった。獄中で「学び直した」経過を語り、「明るい布川」を自称して獄中で作った歌まで披露したのである。「不登校」体験者向けに作られた高校だっただけに、冤罪で服役した体験をマイナスだけにとらえない前向きな生き方には大きなインパクトがあった。その後も連続して毎年来て貰って、僕も非常に感じるところが多かった。最初の授業直後に再審開始が決定し、2011年3月の判決目前に東日本大震災が起きた。
(無罪判決当日、裁判所前で)
 判決は2ヶ月延期され、5月24日に無罪が言い渡されたが、その間に僕は教員を辞めていた。その判決当日は奇しくも僕の誕生日だった。土浦まで傍聴に出掛けたが、傍聴席が非常に少なく(25席)、希望者は1000人以上もいたので抽選に外れた。裁判所への行進に拍手し、判決言い渡し後の「無罪」の幕を見て引き揚げてきた。その後も袴田事件を初め、冤罪・再審関係の重要な節目になると、いつも桜井さんの姿を見たものである。桜井さんは無罪判決後も活動を止めなかった。警察、検察の責任を追及するために、2012年に国家賠償請求訴訟を起こしたのである。

 共同被告人だった杉山さんは国賠訴訟に加わらず、2015年に死去した。一方、桜井さんは全国を飛び回って冤罪を支援し続けた。冤罪を晴らした人は何人もいるけれど、その後も社会に広く訴え活動した人は免田栄さんと桜井さんぐらいだろう。もともと自分の言い分を主張できないような人を狙って冤罪が作られるからだ。獄中で鍛えられた桜井さんだからこそ起こせた国賠訴訟は、2019年に国と茨城県に7600万円の賠償を命じる判決が出た。その時には「画期的な布川事件国賠判決」を書いた。その裁判は、2021年に東京高裁で7400万円の賠償を命じる判決が出て確定した。
(国賠訴訟後)
 このような活動に対しては、2021年に多田謠子反権力人権賞、2023年に東京弁護士会人権賞が贈られた。僕が桜井さんを凄いと思うのは、冤罪支援のフットワークとスタイルである。布川事件を中心的に支援したのは「日本国民救援会」(日本共産党系)で、桜井さんも折に触れて共産党支持を公言していた。(それなのに読売新聞が保有するジャイアンツの熱烈なファンでもあった。)しかし、桜井さんは冤罪を訴えている人がいれば、どこにでも出掛けた。部落解放同盟が主催する狭山事件支援集会にも参加したし、中核派の星野文昭さん(渋谷暴動事件=2019年獄死)の面会にも訪れた。誰にでも出来ることじゃないだろう。
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