尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

川口浩と田宮二郎-増村保造の映画②

2014年07月31日 23時07分13秒 |  〃  (日本の映画監督)
 若尾文子作品以外の初期増村映画を見ておきたい。デビュー作は「くちづけ」(1957)で、「美貌に罪あり」などと同じく川口松太郎原作。川口松太郎(1899-1985)は「鶴八鶴次郎」などで第一回直木賞を受けた作家で、戦後は大映の重役として映画界でも活躍した。妻は「母もの」で有名な三益愛子で、二人の子どもの川口浩(1936-1987)が、この映画の主役である。相手役の女優は野添ひとみ(1937-1995)で、もとはSKD(松竹歌劇団)だから松竹でデビューしたが、大映に移籍した。
(川口浩)
 川口浩と交際していて、父の松太郎に頼みこんで移籍できたという。後に結婚しておしどり夫婦で知られたが、二人とも50代で亡くなった。川口浩は最後の頃はテレビで「川口浩探検隊」という秘境探検もので有名だった。50年代末から60年代初期に大映を代表する青春スターだった。
 (野添ひとみ)
 この二人は「恵まれた環境」にあったが、庶民的な役柄が多い。「くちづけ」でも、拘置所にいる父に面会に来ていて知り合うという滅多にない設定である。東京や湘南海岸のロケも面白く、スピ―ディに貧しい二人の出会いを語っていく。このドライなタッチやスピードが当時は評価されたけど、今見ると東京の貧しさが印象的である。前に見てるけど、あまり意識しなかった50年代の青春に惹かれる。

 二人のコンビの最高傑作は、開高健原作、白坂依志夫脚本の「巨人と玩具」(1958)である。菓子メーカーの宣伝で、貧しい娘の野添が突然スターになる。その間の事情を驚くべき早さのセリフ回しで、風刺していく。高度成長に向かう日本のエネルギーとも言えるし、経済成長の中で人間性を失う悲劇の戯画化とも言える。実に面白い映画だけど、今度見たら展開が図式的な感じもした。セリフも今の感覚でも早すぎて、よく聞き取れないところがある。その後の「不敵な男」(1958)は新宿のチンピラ川口浩とダマされる田舎娘の野添ひとみ。どうしようもない不良青年はどうして生まれたか。街を舞台にした「フィルムノワール」で、案外の拾い物。「親不孝通り」(1958)も不良大学生のリーダー川口が姉を捨てた船越英二への復讐で、彼の妹野添に近づくが…という映画で、筋立てに無理があるがスピーディな展開とロケの魅力で退屈せずに見られる。

 二人が主演で共演したのはこの4本だけど、この当時の作品の多くに二人が登場している。例えば、第3作の「暖流」と第4作の「氷壁」には野添が重要な役を演じている。どちらも有名原作の映画化で、「暖流」は日中戦争中の吉村公三郎版が有名。その後、松竹で野村芳太郎監督でもリメイクされた。吉村版で高峰三枝子が演じた病院令嬢が野添で、これはちょっと無理。病院再建を目指す日疋のスパイとなる看護婦が左幸子で、「愛人でも二号でもいいのよ」と駅で叫ぶシーンなどすさまじいバイタリティ。この堂々たる青春の姿に増村のマニフェストを見る思いがする。丸山明宏(美輪明宏)が出てくるなど、面白いシーンも多い。だけど、岸田國士「暖流」の映画化である以上、ドラマ的に無理が多い。僕は野村版の岩下志麻、倍賞智恵子が一番合っていると思う。
(「暖流」)
 「氷壁」は実際にあった遭難事件をモデルにした井上靖のベストセラーの映画化。山本富士子の人妻に憧れる川崎敬三と菅原謙二、その菅原を愛する川崎の妹を野添が演じる。非常に意志の強い女性役で、「自立した女性」が増村流で描かれる。60年代になると、増村映画は若尾文子の出演が多くなるが、大映を代表する女優の京マチコでも2本撮っている。「足にさわった女」(1960)と「女の一生」(1962)で、どちらも原作がある。「足にさわった女」は女スリが郷里に帰ろうとするが、そこは厚木基地になっているという現代の話にしている。「女の一生」は杉村春子で有名な作品を、40年にわたる日本の戦争をバックに描く。どっちもそつなく仕上がっているが、代表作ではないだろう。
(「氷壁」)
 60年代で(若尾主演と並んで)面白いのは、むしろ男性スターのアクションものである。特に田宮二郎。田宮二郎は「白い巨塔」やその死をめぐるイメージから語られることが多いが、「悪名」シリーズと並ぶ「」シリーズがある。梶山季之原作の「黒の試走車」(テストカー)の面白さは今見ても抜群だ。前に見て面白いと思ったけど、改めて面白かった。「産業スパイ」をめぐる物語だが、「巨人と玩具」の戯画化より娯楽映画の語り口がうまい。ところで、田宮と緑摩子主演の「大悪党」(1968)と宇津井健主演の黒シリーズ「黒の報告書」(1963)は、裁判の描き方が納得できず、とても楽しんでみられなかった。

 「闇を横切れ」(1959)はほとんど誰も知らない社会派ミステリーだろう。市長選立候補中の革新陣営候補がストリッパーの死体と一緒に発見され、殺人容疑で逮捕される。無茶なストーリイで、もちろん「謀略」に決まってる。いくら何でも市長選の最中には仕掛けないでしょ。川口浩の新聞記者が追及し、上司の山村聰が応援するが。演出が面白いが、脚本が弱すぎ。「恋にいのちを」(1961)も知られざる作品で、藤巻潤、江波杏子、富士真奈美というキャストも弱い。藤巻潤は、若尾文子の相手役などでこの頃よく出ている。「偽大学生」でも若尾の相手をするリーダー役。姉が大山倍達の妻で、極真カラテを習得してアクション映画でも活躍した。失踪した父の秘密を探る藤巻をめぐる二人の女。江波杏子の若い頃の魅力が判る。
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2 コメント

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やはり最高でしたね (さすらい日乗)
2014-08-08 21:59:40
今日、「大地の子守唄」を見て来ましたが、最高でしたね。晩年の増村の最高作品ではないか、原田美枝子は、まだ高校生だったはずだが。彼女は、増村と黒澤明にしごかれたので、その後、どの映画でも気が乗らないと言っているが、その通りだろう。
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曽根崎心中も (ogata)
2014-08-09 20:28:47
 ブログの方も拝見しましたが、昼の部の方が混んでいるように思います。高齢者が多いので、当然でしょう。でも若い人も多かったということで、喜びたいと思います。

 「大地の子守歌」は2回ほど見ています。今回は一番最後の日に行こうかなと思っています。それもいいのですが、僕は「曽根崎心中」の凄さも声を大にして言いたいと思います。まあ、宇崎竜童の演技と音楽はどうかと思う部分もありますが、とにかく全体を貫く緊迫感と時代批判の精神の気高さは、数多い近松原作の傑作の中でも有数のものではないかと思っています。

 今回見た中では、「偽大学生」や「黒の試走車」が今も素晴らしく面白いと思いました。上映機会の少ない映画はやはり今一つと思いましたが、「闇を横切れ」「恋にいのちを」など、それなりに見所はあります。今後に大画面で見る機会も乏しそうな映画ですから、是非ご感想をうかがえたらと思います。
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