尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

育鵬社の公民教科書、驚きの偏向ぶり

2015年07月26日 18時20分08秒 |  〃 (教育問題一般)
 安保法制に関して、まだまだ書きたいことが多いのだが、いいかげん中学教科書問題を書かないと採択時期が来てしまう。とにかく、数回、教科書問題。すでに7月15日に、栃木県大田原市育鵬社の歴史、公民教科書を採択することを決めた。中学教科書の採択は4年に一度だが、ここ数回、大田原では全国のトップを切って、扶桑社、育鵬社の教科書を採択してきた。だけど、今まではそのことは各紙のニュースになってきたが、今回は朝日も東京も報じていない。安保法案の委員会強行採決と重なったのである。しかし、産経新聞はやはり報じている。産経の子会社が扶桑社で、扶桑社の100%出資の子会社が育鵬社である。つまり、産経の孫会社である。ここら辺の関係は次回にもう少し書くが、前回までは反対運動も報じられてきたが、今回はほとんど知られていないのではないか。

 その理由は後で考えるとして、とにかく現物を見てもらいたい。公民分野89頁。「政党と政治」。

 
 いつもは写真、画像は小さく載せ、クリックすると大きくなるようにしてある。しかし、今回は出来るだけホンモノに近く見てもらうために、あえて大きく載せることにした。人によっては「見たくない顔ばかり」かもしれないが、公立の学校で採択されれば「税金でその学校の生徒すべての配布される」ものなのだから、我慢して見てもらうしかない。

 まず、目につくのは安倍首相の顔が2つも大きく出ているということである。下は選挙公約集だというのだが、 何しろ「2013年参議院選挙」を取り上げているので、「日本維新の会」なんていう「今はなき政党」まで載っている。よりによって、石原・橋下の2枚看板という時代。民主党の海江田代表(当時)の顔はたまたま小さなものになっていた。共産党はこの時伸びたが、上から4つという意味では出てないんだろうなあ…と思うでしょ。ところが、ところが、当時の参議院の議席数は以下の通り。
 改選前数 民主86 自民84 公明19 みんな13 生活8 共産6 社民4  
 当選者数 自民65 民主17 公明11 みんな・共産・維新8
 新勢力数 自民115 民主59 公明20 みんな18 共産11 維新9 社民3
 「みんなの党」の方がずっと大きい。「みんなの党」は今や無いではないかというなら、「日本維新の会」なんてのも無い。それに参議院の議席数は共産党の方が多い。衆議院の議席はまた違うけど、参議院選挙のポスターを載せるんだったら、参議院の勢力順に載せるべきではないか。

 ということもあるけど、要するに一見してみれば、安倍、山口、石原、橋下の顔が見える。民主党海江田の顔は小さくて見えにくい。公平を装うこともしてないのか。この教科書は非常に安倍首相の顔が多い。安倍氏は日本の内閣総理大臣であるから、日本国の政治の仕組みを記述する時には、何枚かの写真が使われるのが自然である。だが、同時に安倍氏は自由民主党総裁という私的結社のトップでもあるから、一党一派に偏向しないように努めるのも普通だろう。でも、育鵬社の公民教科書では、何かにつけ安倍首相の写真が使われる。例えば、平等権の問題を取りあげる時には、「憲政史上初の女性首相秘書官」なんていう写真を載せる。この神経はすごい。安倍首相が大好きなんだろうが。

 ところで、左下の選挙公約より、とにかく目立つのは左上の「党首討論」の写真だろう。こっちを先に書くべきだと言われるかもしれないが、こっちから書くと、それでもう満腹状態になってしまうのである。だから、あえて最後に残しておいた。生徒にとって判りにくいのが、「議院内閣制」の仕組みと、「与党」と「野党」という概念である。長いこと、自民党が与党だったから、与党=自民党のことだと思い込む生徒が出てくるわけ。だから、政権交代した時に、今度は民主党が与党だよというと、判らない生徒が出てくる。その意味で「党首討論」というものも、うまく使えば生徒の理解を深める材料だろう。だけど、安倍首相と対峙しているもうひとりの方は誰?

 これは「日本維新の会」の石原慎太郎共同代表ではないか。いやあ、これはすごい。すごすぎると思う。だって、「日本維新の会」はもうないし、それ以上に当時であっても「野党第2党」だったではないか。石原元都知事のもとで、東京都教育委員会は養護学校(現・特別支援学校)や中高一貫校でずっと扶桑社、育鵬社を採択し続けてきた。その恩返しというわけでもないんだろうが、とにかくこの教科書を作った人は、安倍首相と同様に石原元都知事が大好きなんだろう。そう思わないとこの写真の選択は理解できない。だって、いくら民主党が嫌いでも、民主党が野党第一党である以上(当時はその差はわずか2議席であったわけだが)、与党党首(内閣総理大臣)と野党第一党の党首討論の写真を使うのが当然だからである。政党への評価の問題ではない。いくら何でも、一党一派に偏していると言われても仕方ないと思う。野党第2党の写真を載せる神経が、正直言って判らない。なお、現行教科書(4年前のもの)を見てみると、育鵬社だって「鳩山由紀夫首相と谷垣自民党総裁」の写真を使っている。また、今回の他社を見てみると、党首討論の写真を載せている社も当然あるが、その場合は安倍首相対海江田民主党代表の写真を使っている。当然だが。白黒だが、その証拠に某社の教科書を下に載せておく。(今度は小さいので大きくしないと判らないだろう。元々の写真も小さいし、その下に「秘密保護法「反対」50%」という新聞記事を載せてある。世論調査の代表例という意味である。)
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1 コメント

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必ず止める (小池拓也)
2015-07-18 02:06:28
たしかに,このページは分析してみると,とんでもないですね。ここまで公平性を無視できるとは…。
次の記事も期待しております。
育鵬社の採択,必ず止めましょう。

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