尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「大川原化工機」国賠訴訟、裁判所の責任も重大だ

2023年12月28日 21時57分07秒 |  〃 (冤罪・死刑)
 「大川原化工機」国賠訴訟で、東京地裁は2023年12月27日に東京都と国に総額約1億6千万円の賠償を命じる判決を言い渡した。この判決は警察、検察の捜査は違法だとして、「当然に必要な捜査」を怠ったと判断した。新聞の判決要旨を読むと、冒頭で「刑事事件で無罪が確定しただけでは、直ちに逮捕や勾留請求、起訴が違法とはならない」としている。そして「その時点で収集した証拠などを総合勘案して、その判断に合理的な根拠が欠けていることが明らかなのに、あえて捜査を継続したと認められるような場合に限り、国賠法上違法と評価される。」としている。

 つまり、この判決は警察や検察が「合理的な根拠」がないのに、「あえて捜査を継続した」と言っているのである。この事件は2020年3月に警視庁公安部が大川原化工機の社長ら3人を逮捕して始まった。同社が中国に輸出した「噴霧乾燥機」が軍事的転用が可能で、国の輸出規制の対象なのに無許可で輸出したという容疑である。その後起訴されたが、公判目前の2021年7月になって、輸出規制の要件である「殺菌性能」が証明出来ないとして、起訴が取り消しになるという異例の経過をたどった。

 この事件は起きたときから無謀じゃないかとなんとなく思っていた。公判が近づくにつれ、どうもおかしいという声がマスコミでも報じられるようになった。僕も記事を書こうかと思っているうちに、起訴取り消しになったので書かずに終わっていた。もともとがおかしな「公安事件」であり、中国に対する強硬な外交路線を示すため「あえて立件した」感じがする。安倍政権時代を象徴する事件であり、警察、検察側も政権の思惑を意識せざるを得ない時代だった。東京高検の黒川検事長の定年延長問題が起こったのは、捜査、起訴直前の2020年2月のことである。その直後に東京地検が起訴したわけだ。

 ところで、この事件のもう一つの大問題は「人質司法」である。容疑は「外国為替及び外国貿易法」違反であり、殺人や傷害、放火などの重罪犯とは違う。どちらかと言えば形式的な犯罪である。それなのに何度も保釈請求が却下され、最終的には8回目の請求により11ヶ月目の2021年2月に保釈されたという。その間に同社顧問の男性は胃がんが見つかった(2020年10月)のに保釈されなかった。そしてようやく保釈された直後に、その男性は亡くなったのである。その時点ではまだ起訴は取り消されていなかったから「被告」のまま亡くなったのである。本当にお気の毒で、なんと言うべきか言葉もない思いがする。

 さて、国家賠償法に基づく賠償請求を行うにあたり、被告は都と国を対象にした。東京都が対象なのは、警視庁公安部の警察官は東京都の公務員だからである。また検察官は国家公務員なので、国に対しても請求したわけである。だから「裁判官の責任」は問題になっていない。今回の判決は「逮捕は国賠法上違法」と判断した。「犯罪」が成立する要件である「殺菌性能実験」を行わなかったからである。しかし、裁判官が逮捕状を発行しない限り警察、検察は逮捕できない。(現行犯に限り「緊急逮捕」「私人逮捕」などが可能だが。)その後の勾留も裁判官が判断して容認したものである。

 何度も何度も保釈請求を却下したこと、特にがん発見後も保釈しなかったことは、裁判官に責任がある。保釈を認めないように検察官が要求したとしても、裁判官は検察の要求を退ける権限を持っている。がんになっても保釈を認めないというのは、仮に有罪が明らかな被告人であっても非人道的な行為である。「がんになっても保釈しない」というのは、「獄中で死んでも構わない」ということになる。(病院への移送は認められていたが。)それは「そうなっても構わない」という意図で行われる「未必の故意の殺人」に極めて近いと思う。その責任を裁判所が誠実に総括しない限り、「人質司法」の悲劇を繰り返すことになる。

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