尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

死刑廃止へ向かうアメリカー日本も死刑モラトリアムを

2021年07月18日 21時01分00秒 |  〃 (冤罪・死刑)
 書く機会を逸してきたテーマの一つに「アメリカの死刑状況」がある。アメリカでは各州ごとに裁判が行われ死刑も行われてきたが、近年になって死刑制度を廃止する州が増えてきた。他に連邦政府連邦軍にも独自の死刑制度があり、トランプ政権は2020年に17年ぶりに連邦での死刑執行を再開した。政権末期、それも政権交代が決まった後にも異例の死刑執行を行った。連邦での死刑執行は13人(2020年には10人)にも及び、例年最多執行を行うことが多いテキサス州(2020年は3人)を追い抜いて全米最多となった。

 それに対し、バイデン政権では死刑廃止を公約していたが、7月1日になってガーランド司法長官が連邦による死刑執行を停止し、死刑政策や執行方法を検証すると発表した。ハリス副大統領はカリフォルニア州の検事出身だが、検事への立候補の際にも死刑反対を公約にしていた。バイデン氏も死刑制度を人権問題ととらえていて、今回の司法長官の決定でも「死刑の恣意的な適用や有色人種への影響について深刻な懸念がある」としている。
(アメリカ各州の死刑状況=ウィキペディア)
 画像にある色は、=死刑廃止州、=死刑を執行しないことを公約している州、=制度上はあるが10年以上執行していない州、=死刑制度があるものの特別な事情がある州、=死刑存置州

 全米50州のうち、現在23州が廃止州になっていて、27州が存置州になっている。ただし、ワシントンD.C.5自治州(プエルトリコ、グアム、北マリアナ諸島等)も廃止している。また存置州の中でも、カリフォルニア、カンザス、ペンシルバニア、ワシントンなど10州が過去10年間執行をしていない。死刑執行停止が長くなっている国はアムネスティでは「事実上の廃止国」というカテゴリーに入れているが、アメリカの州でも10州はそれに近い。2020年にはアラバマ、ジョージア、ミズーリ、テネシー、テキサス各州と連邦で死刑が執行された。このように今でも執行を続けているのは数州に止まるのが現状だ。
(アメリカで死刑廃止を訴える人々)
 今挙げた昨年執行があった州はいずれも南部に所属している。ところが今年3月25日にバージニア州で南部初の死刑廃止が実現した。バージニアは地図を見れば「東部」という感じだが、南北戦争で「南部連合」に加わった州である。バージニア州のノーサム知事は、「20世紀中に同州で処刑された377人のうち296人が黒人だった」と指摘している。米民間団体「死刑情報センター」によると、昨年10月時点で全米の死刑囚の41.6%が黒人で、人口比の約13%を大幅に上回っているという。死刑に関して人種的偏見があることが統計上指摘されている。

 アメリカでは犯罪が多く、世論には「死刑存置」が強い。カリフォルニアでは毎回のように死刑廃止を掲げた住民投票が行われるが、いずれも否決されている。これは全世界的にある程度共通していて、世論で廃止が多くなって廃止された国はないと思う。それよりも政治家が責任を持って廃止に向かった国が多い。それは死刑制度を「人権問題」ととらえるからである。バイデン政権で連邦での死刑執行がなくなり、全米的な死刑廃止の機運も盛り上がっている。ただし、連邦での死刑廃止法成立を目指すと言いながらも、議会で圧倒的な多数を持っているわけではないので難しい状況にある。

 これでG7の中で、死刑を明確に存置する国は日本だけとなった。G20を見ても、中国、インド、インドネシア、サウジアラビアなどアジア諸国しか死刑執行がない。この現実に対して、日本では議論すら起きない。日弁連はかつて「東京五輪までに死刑廃止」を掲げていたが、もともと無理だった。しかし、日本でも2019年12月26日に中国籍の死刑囚が執行されて以来、1年半にわたって死刑執行が止まっている。これは議論があって止まっているのではなく、コロナ禍が最大の原因だろう。また東京五輪や検察官定年延長問題、河井元法相による大規模贈賄事件なども背景にあると思う。執行を命じる法務大臣がスキャンダルを起こしていては、死刑どころではない。

 それにしても、死刑を執行するときは検察官や医官、拘置所当局者と刑務官など多数が関わることになる。死刑執行だからといって、数多くの人が集合することは批判されかねない。またよく刑務官も当日は手当で酒場へ行って飲んで忘れるなどと言うが、街に飲み屋が開いてないような時に執行するのもためらわれるのかもしれない。しかし、これはいい機会ではないか。日本でも死刑執行のモラトリアム(一時的停止期間)とし、皆で議論をした方がいい。

 「人種」で明確化されないだけで、日本でも貧困、低学歴、障がい者に死刑が多いはずだし、再審制度が厳しすぎるから認められていないだけで無実の死刑執行もあったはずだ。それに日本では「死刑になりたい」という理由の犯罪が多いというおかしなことになっている。「無期刑」が事実上の「終身刑」になっている感じだが、それならはっきりと「終身刑」を設けて「死刑」を止める方がいいという意見もある。世界では圧倒的に廃止国を多くなっているのだから、日本人もよくよく考える必要がある。
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