尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

内田裕也、スクリーン上のロックンロール

2019年06月14日 23時21分02秒 |  〃  (旧作日本映画)
 今週は新文芸座(東京・池袋)で行われていた内田裕也の追悼上映をずいぶん見た。ちょうどキネマ旬報社から「内田裕也、スクリーン上のロックンロール」という「最後の超ロングインタビュー」も出版されたばかり。「ロックの日」(6.9)の発売である。これがもう圧倒的に面白くて、読み始めたら止められない。熱くたぎる汗が本の外まで飛んでくるような本だ。映画を見てない人でも面白いと思うけど、見てたら面白さが倍増、三倍増する本だ。70年代、80年代にこういう映画があったのである。
 
 最初の出演作「素晴らしい悪女」や「クレージーだよ 奇想天外」は疲れてて見逃した。また「コミック雑誌なんかいらない!」と「十階のモスキート」は混んでたので待つのが嫌で見逃すことにした。その後、滅多にない機会だから頑張ることにして、先の本も買っちゃった。60年代はナベプロの関係で、若大将シリーズやクレージーキャッツ、ザ・ドリフターズの映画なんかにも出ていた。

 本格的な劇映画出演は「不連続殺人事件」(曽根中生監督、1977)だった。先の本によると、元々はもっと大物俳優に声をかけていたという。坂口安吾の原作は日本ミステリー史上最高傑作レベルだが、映画は140分もあって長すぎる。公開時に見たし原作も映画の前に読んでいた。撮影が新潟の豪農の家として有名な「北方文化博物館」だったのは驚いた。もう何十年も前に訪れた思い出がある。事件の真相も忘れていたけど、有名な原作だから途中で思い出した。内田裕也は中心的な人物の一人で、前衛画家の役。原作を追うのに精一杯の展開だけど、内田裕也は存在感を発揮している。ロマンポルノの俊英曽根監督のATG作品だが、非常に成功しているとまでは言えないだろう。
 (「不連続殺人事件」)
 その後、日活ロマンポルノ作品にたくさん出ている。「実録不良少女 姦」(藤田敏八監督、1977)や「少女娼婦 けものみち」(神代辰巳監督、1980)は細部は興味深いが、もう昔だなという気もする。神代辰巳の「嗚呼!おんなたち 猥歌」(1981)は今もすごく面白い。もっとも今じゃ描けないような性暴力満載の映画だ。売れないロック歌手という設定も面白い。マネージャー役を現実にも親しかった安岡力也がやってる。二人でレコード店で宣伝に出かけるが、誰も聞いてない。どこかと思うと、遠くに「ほうとう」の看板が見えるので甲府だなと思った。本で読むとその通り。キャバレーで歌うと、「与作」をやれと言われて裕也が「与作」を歌うシーンが印象的。妻子がいて、愛人をソープで働かせ、さらに何人も強引にやっちゃう主人公はひどいヤツだが、内田裕也の存在感が半端じゃない。キネ旬5位。

 今回見た初めて見た「共犯者」(きうちかずひろ監督、1999)。全然知らなかったけど、竹中直人主演の「カルロス」の続編。監督は「ビー・バップ・ハイスクール」の原作漫画家だが、ハードボイルド系の映画を何本か監督している。2018年の「アウト&アウト」も良かった。暗さ全開のハードボイルドで、救いがどこにもない。蕎麦屋の店員だったのに、ひょんなことから知り合って銃撃戦まで付いてくる小泉今日子が最高。その相手の殺し屋が内田裕也で、アメリカ人ギリヤーク兄弟の兄の方。寡黙な殺し屋だが、しゃべるときは怪しい英語を連発する。全編暗い画面で展開する最高のハードボイルド。

 伊藤俊也監督の「花園の迷宮」(1988)は、江戸川乱歩賞受賞の原作の映画化。東映京都に作られたセットがすごく、この頃はまだそんなことが出来たんだと感慨深い。島田陽子と裕也が知り合った映画。横浜の洋館風の娼館で、相次ぐ不審な殺人。主人の島田陽子の他、黒木瞳、江波杏子、工藤夕貴ら女優陣の配役がすごい。豪華なセットの一番下で、石炭をくべ続ける窯焚きが内田裕也。最下層なのに、実は映画の鍵を握る。映画としての成功度以上に、なんだかキャストを見るのが楽しい。

 若松孝二監督が3本。「餌食」(1979)はアメリカ帰りのロック歌手が日本で浮いて犯罪者になる。「水のないプール」(1982)は実際の事件にインスパイアされた性犯罪映画で、公開時に見たときから好きじゃないけど、やっぱりすごい映画だと思う。麻酔薬で眠らせて女性を強姦していく地下鉄職員の役である。この冷たい感触の映画が確かに時代を映している。内田裕也が監督に持ち込んだ企画だというが、はまり役すぎて怖い。
 (「水のないプール」)
 「エロティックな関係」(1992)は、公開当時予告編を何度も見たけど、初めて見た。もともと「エロチックな関係」(長谷部安春監督、1978)という映画があり、そのリメイク。レイモン・マルローという人のミステリーを翻案して、ロマンポルノ風にしたのが前作。裕也は売れない私立探偵で、依頼に応じて浮気調査しているうちに罠にかけられる。その元映画をパリに移して、助手に宮沢りえ、依頼者にビートたけしというすごい配役。映画的には不自然すぎる(パリで日本人ばかり)が、要するに若い宮沢りえをフィルムに残しておきたいという企画だったらしい。その意味ですごく貴重だ。
 (「エロティックな関係」)
 インタビューを読むと、勝新太郎若松孝二北野武ら、とんでもない熱量を持った人と映画を作ってきたことが判る。日本でコンサートした外国タレントの大部分とケンカしたと豪語するのも凄い。もちろん日本人でも酒やケンカの日々で、そのような60年代、70年代の伝説を後世に伝える本でもある。いい気分になる映画ばかり見て育つと世の中を間違う。こんなトンデモナイ映画がかつて作られていたことを21世紀にも伝え続けるのも意味があるだろう。
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