波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

  オショロコマのように生きた男   第7回

2011-07-01 10:11:30 | Weblog
会社を辞めてから朝早く起きることもなくなり、朝寝坊の癖がつきその日もだらしなく
寝転んでごろごろしていると携帯電話が鳴った。出てみると和夫だ。「おい、宏起きてるか。お前会社辞めたんだって、会社へ電話したらいないからびっくりしたよ。良かったら出てこないか。駅前の「ラナイ」て言う喫茶店で待ってるから。」「わかった。わかった。すぐ行くから待ってろよ。」朝のコーヒーには目の無い宏はすぐ起きると身支度も早々に「ラナイ」へ向かった。「お前、何時会社辞めたんだよ。連絡ぐらいしろよ」
何を言われても別に言い訳をするわけでもなく、相槌を打つわけでもない。ただいつものコーヒーの香りを楽しみながら、好きなタバコを味わっている。
「木梨のやつがうるさくてさ。野間をつれてきてくれってきかないんだ。お前一回顔を出してやってくれないか。話だけ聞いて、嫌ならその時断ればいいんだから」「あいつ、何処で仕事しているんだ。」「もう仕事を始めてるらしいよ。何でも千葉の方らしい。電話番号を教えるから一回付き合ってやってくれよ」そういえば、この前和夫が来た時に聞いた話で覚えていたが、気が進まなかった。木梨とは性格も趣味も違う。学生時代からそんなに親しい間でもなかった。ただ同じ学校へ行っていたことだけが共通項で、たまに会うとその時話す程度であった。今思い出してもどんな奴だったかぼんやり思い出す程度だ。
駅前の雑居ビルの三階にある「ラナイ」は宏のお気に入りである。若い店長は母親と二人だけの一人っ子でマザコンタイプだが、愛想は良く感じが良かった。オーナーは偶にしか来ないで、店長が店を仕切っているのだが、店の女の子もみんな若く、粒そろいで可愛い子を揃えている。店内の壁にはその時期に応じた「貼り絵」の額がかけられ、どれも見事なものばかりだ。聞くと店長の母親の趣味らしいがかなり高級なもので教室で教えているらしい。息子のために無償で飾っているとのことだ。その他にも滅多に見られないロイヤルコペンハーゲンの絵皿が置いてあったり、観葉樹もあちこちにおいてある。宏は何時も喫煙室の奥まったテーブルが好きで、其処で一人でコーヒーを飲みながらマーボロを吸うときがすべてを忘れられる至福の時であった。
店に入ったとき、いつものようにすぐ店長が顔を出したので、「今日は古い友達が来ているんで、少し話が長くなるかもしれないがよろしくね」と断った。「分りました。ごゆっくりどうぞ」店長は奥へ引っ込んだ。

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