波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

         波紋     第92回    

2009-05-15 10:19:02 | Weblog
その年も終わる頃、小林は一人の友人を訪ねることを思いついた。彼は八ヶ岳のふもとで一人で暮らしている。ある意味世間離れをした仙人のような生活であるが、彼は平気であった。地元の教育文化関係の仕事を受けてボランテアのようなことをしているらしい。サラリーマン時代に取引先の一人として知り合ったのだが、特別な接点があったわけではないのにうまの合うところがあった。
ただ、大酒飲みで時間が来ると、酒を飲み始めるので、多少腰の引ける思いはあったが、何故かうまが合って、付き合っていた。
人間的に何か惹かれるものがあったことと、まだ定年前にも拘らず、さっさっと退職して山へこもってしまったことで、気になっていたのである。
まだ、現役の頃、彼の力を借りて、中国へ技術指導に行ったことがあったが、そのときも快く引き受けてくれて二人で出かけたことがある。
確か、サアーズ風邪の発生した年でまして中国は止めたほうが良いと同行者の中には止めた人もいたが、二人はお構いなしで、出かけたものである。
おかげで、機内はがらがらでサービスが良かったことを覚えている。
そんなことがあってから、お互い接点も無く、そのまますぎていた。こうして時間がたち、身の回りのことが見えてくると、何故か、彼のことが思い出され、一度ゆっくり話をしたくなった。八ヶ岳と言うと生活にはいささか不便なところであり、夏はともかく、冬はかなり厳しいと想像されるのだが、彼が何故そんなところへ行ったのか、不思議であった。
人間関係に疲れたのか、前からの憧れとして考えていたのか、購入条件が良かったのか、不思議な気もするが、彼らしいと言えば、そんな気もしていた。
地図の上か、観光案内でしか知らないところであり、行ったことも無いところで少々心細かったが、電話をすると、「いつでもいらっしゃい」気軽な返事である。
夏も過ぎてすこし、時期が遅いと思ったが、思い立ったら吉日で出かけることに
した。オフシーズンとあって、ペンションも空きがあり、格安で借りられるとの事だった。
新宿から急行「あずさ」に乗る。昔は仕事でこの中央線は良く利用したものである。しかし、今回は特別な気分である。周りの景色も新鮮であり、変わって見える。当時は何を見ても、仕事がダブっていて、何を見ても上の空で、仕事のことを考えていて、何も見たかもわからないものだった。
今は車窓から見える建物や木々の一つ、一つに意味と、想像が加わり、いろいろ考えて、楽しむ事が出来る。出来れば、ちょっと下車して立ち寄ってみたいようなものを見つけたりすることもある。

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