波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

オショロコマのように生きた男  第77回

2012-03-02 09:41:32 | Weblog
詳しい様子は聞くことが出来なかったが、どうやら新しい動きがあるらしい。直接的には影響があるわけではないので気にかけないでいたが、その様子が全く別なところから入ってきた。
千葉の工場が動き出して順調に仕事が出来るようになると野間は更なる事業拡張を目指した。そのために営業専門の人間が必要である。自分が全てをこなすのはやはり物理的に無理だった。工場を留守にするとまだ素人集団のために品質管理がおろそかになり、二度手間になることが多く時間がかかった。そんな事もあって外交の出来る人間で、出来れば業界に明るい人間が欲しかった。即戦力になる人間である。業界に明るい村田に頼んでみる。村田はその頃、あるメーカーの若者から相談を受けていた。
今の会社が海外進出をするために社内の合理化を図り、何人かの人間がその計画から外れていたのだ。
村田は話を聞くと取引先を当たりながら二人の就職を斡旋していたのだ。一人が技術系だったが、一人は渉外に向いていた。
早速そのはなしをすると「会ってみたい」とあって、照会ができた。その加藤が挨拶に来た。「お陰さまで野間さんの会社で仕事が出来るようになりました。開発を担当して市場調査を兼ねながら動きます。特に群馬地方には精密企業が多く、仕事も取れそうなのであの周辺を中心に回ります。出来ればあの辺にもう一つ工場を作って、お客さんに即納できるようにしたいと言うことで適当な工場になるようなところを野間さんが探しているんですよ。」と話してくれたからだ。
野間のことだからそうなると千葉のことなどすっかり忘れて飛び回っていることだろう。これで当分ゆっくり話をすることは出来なくなるだろうと村田は諦めていた。
やがて秋の涼しい風を感じるようになった頃、野間からいつものように突然電話があった。良く忘れないでいたなあと半ばあきれながら、半ば感心して電話を取る。「村田さんご無沙汰しています。今度群馬工場を作ったんですよ。中々良いところですよ。ご招待するので一度遊びに来てください。一泊泊まりでね。」いつものように単刀直入に一気に用件だけを話す。
そこには嫌も応もないものを感じさせる。「ありがとう。都合をつけて連絡するので、そのときはよろしく」そこへわざわざ行く目的もなかったが、いつもの好奇心と情報を聞いておきたいと言う思いだったし、たまには仕事抜きでも悪くないと気楽に思ってもいた。浅草から日光鬼怒川へゆく特急はデラックスで快適だ。車窓から見える景色も始めて見るもので新鮮だった。

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