波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

   パンドラ事務所  第六話   その5

2014-02-22 11:41:16 | Weblog
コース料理を頼むと取りあえずビールを1本頼む。青山は飲めないが初めての彼女との食事で
少しでもリラックスさせ、落ち着かせたい思いがあった。
「乾杯」と形だけグラスを合わせて
一口飲む。彼女は美味しそうにぐっと一気にそれを飲み干した。そして恥ずかしそうにこちらを見ている。料理が少しずつ運ばれてくる。
彼女は一つ一つを味わいながら時々「おいしい、初めてこんなにおいしいもの食べるんだけど
どうすればこんな味が出来るのかしら。」と時々考え込んでいる。料理には興味があるらしい。もくもくと食べている間はあまりしゃべらなかったが、デザートが出てお茶を飲み干すと静かに話し始めた。「片山さんとは同じ高校で出会いました。家は少し離れていましたが、授業が終わると同じクラブ活動で一緒に過ごす時間が多くなったのです。新聞部という事で学校新聞の編集の仕事を受け持ったのです。記事を書いたり、商店街へ出かけて広告を取ってきたり、結構二人でいる時間がありました。」テーブルの上だけを照らしている少し薄暗い照明は彼女の顔を薄ぼんやりと浮き立たせていた。やっと少し落ち着いて彼女を観察する余裕が出てきて見ていると
中々の美人である。田舎から出てきたにしては素朴な美しさを備えている。体つきは少し肉体的に豊満な感じでその容貌も誰かを想像させた。青山は話を半分に聞きながら「誰かに似ているなあ」勝手な想像をしていた。そしてある女優さんを思い出していた。「そうだ昔、春川ますみ」と言う女優さんがいたけどあの人の感じかなと見直していた。そしてこんな女性と付き合うのもいいもんだなあと片山から頼まれていたことを忘れて見とれていた。
「でも高校を卒業するときになって、急に片山さんから東京へ出ることを知らされたのです。
初めは何にも感じていなかったのに、その言葉を聞いたとたんに自分が片山さんにひかれていたことをはっきりと感じていました。日ごろそんな様子を見せたことはないし、無口でいる彼なので分からなかったけど、そのことがむしろ男らしく思えて一緒にいたいと強く思っていたのです。だから彼が何を言ってもついていくつもりが出来ていたのです。
でも彼はただ東京へ行くと言うだけで、一緒に行こうというわけでもなく、私も行ける状況ではなかったのです。卒業するといつの間にか彼は大島にはいませんでしたし、その後の事は全く分からないままでした。」

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