波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

パンドラ事務所  プロローグ(その1)

2013-06-06 10:15:17 | Weblog
目が覚めて時計を見る。別に時間を決めているわけではなく、ただ何となく見るだけだが
時計の針が7時を過ぎているのを確認すると「起きるか」と一人ごちて立ち上がる。
玄関で新聞を取り上げると、そのまま居間のソファーに座り一通り目を通す。最近は新聞を読む人も少ないと聞いているが、昔人間の彼には朝の新聞は欠かせない。
記事のチエックが終わると、徐に「血圧計」を手に取る。ここまでは無意識な行動で決めているわけではないが、毎朝の行事となっている。
時間とともに身体が覚醒してくる。着替えを済ませ洗面を終わると窓を開けてベランダへ出る。狭い場所に鉢植えの草花が並び季節の花が彼を迎えてくれる。
ベランダの向こうは昔ながらの隅田川が流れている。夏になるとこの川風が涼やかに心地よく部屋を通り抜けていく。
仕事、仕事で夢中で暮らしていた頃、妻を亡くしその後娘、息子が結婚し家庭を持ち、それぞれ独立して離れていった。一人暮らしをするようになったころ隣人から「まだ若いんだから再婚して新しい生活を」と言われたが、家庭を無視して妻を亡くした罪悪感が頭から離れず、家庭を持つ気が薄れていた。
しかし、別に女性嫌いになったわけでもないし、むしろ関心は強くなったかもしれない。
ただ、今まで見えなかった女性の人間性とか、理解力とか男性との違いや考え方がわかるようになったことで、果たして今の自分にそのような「包容力」を持って、接することが出来るかという自信がなかった。
簡単な朝食を済ませ、コーヒーを飲みながら机に向かう。パソコンを開けて、チエックが終わると、適当な時間に玄関を出る。
人形町の地下鉄までの甘酒横丁の通りを歩く。この時間になると通りの商店街もそろそろ店を開け始めその日の仕事が始まっている。
この時間になると地下鉄もラッシュが過ぎていて混んでいない。日比谷線で「秋葉原」まで15分、ここで下車。
昭和通へ出る。電気街の通りと違いやや人通りの少ない横断歩道を渡ると左へ曲がり
少し歩くと少し古ぼけた雑居ビルが立ち並んでいる。
ビルのロビーに看板があり、「パンドラ事務所」が4階にあった。
青山は小さなセカンドバッグを片手にお気に入りの黒い帽子を被ったまま事務所の扉を開けた

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