波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

泡沫の行方     「第50回」

2016-03-12 10:58:14 | Weblog
人間と言うものの存在はきれいなものではない。むしろ好きなことをさせればすぐ悪いほうへ行くものだと言うことを知らなければならない。欽二は世の中へ出て其の事実を知ることになった。あだむとイブが神から「知識の木」と呼ばれる木の実以外は何でも食べてよいと言われたように好きなことをして良いと言われたように何も考えることもなかった。
あたらしい「エデンの園」のように何でも出来て何でも手に入るような気がしていた。岡山時代、福島時代の拘束されたあれをしてはだめ、これをしてもいけないと言う自由のない環境から開放された意識がすっかり消えていたのである。そんな時幼友達の女性にあったと言うことは
彼の本能を呼び覚ましてしまったのかもしれない。抑えられていた抑圧から解放されて、潜在的にあったものが飛び出したような感じでもあった。
仕事の合間に時間が出来ると彼女の休憩時間を見計らってその辺をうろつき二人でお茶を飲みながら、時には食事をしながら楽しい時間を過ごすようになっていた。
そんな時欽二の頭には家のことや仕事のことも消えていた。全てを忘れていたのである。
と言って其の女性と行動を共にすると言うほどの力も勇気もなかった。もちろん経済的な問題も制限があったし、肉体的にも勇気も度胸もないのである。
ただひたすら其の時間が楽しければよかったのだ。そんな時期が数ヶ月も続いていただろうか。
いつものように仕事を済ませて帰ってみると事務所の雰囲気が少し違っている。
「なにかあったな」と予感がしてデスクに座ると部下の浅尾が近寄ってきた。
「所長ちょっと話があるんですけど」と言い始めた。彼は自分と仕事が同じで新しい材料の開拓販売と接待をしていた。何をしても卒がなく、其の人柄の真面目さをお客さんから変われて信用も厚かったとりわけ時間外のマー^ジャンの接待はいつも一緒に付き合ってくれて酒席もこなし助かっていた。「私はこれから仕事を今までのようには出来ません」と言い出した。
それがどんな意味なのか、どういうことなのか分からなかった。

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