波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

 コンドルは飛んだ  第22回

2012-10-26 09:48:15 | Weblog
毎日のように入ってくる本社からの指示事項に対して満足のできる報告を送ることが出来ないままに日が過ぎていた。そんな心労が重なってか、辰夫はある日突然原因不明の
高熱に見舞われた。朝、起き上がることも出来ず同僚に助けられて会社専用のジープに乗せられてラパスの病院へ運ばれた。数少ない病院で診察を受けたが、はっきりした原因は分からず、風土病の一種(デング熱のようなもの)ではないか(主には水、虫による)と
される。すぐには仕事に復帰できず、そのまま市内にアパートを借りて治療をしながら
静養に努め様子を見ることになった。熱は一進一退であり、体に力が入らず自力での
生活が出来なかった。病院からの紹介で介護をしながら身の回りをしてくれる女性が派遣されてきた。「カミラ」と言う名前のスペイン系の独特な大きな目と黒髪が印象的であった。久子以外に女を感じることがなかった辰夫の心に初めて男として女を感じた瞬間でもあった。それは運命の出会いであり心を引かれた時間でもあった。
異国の誰も頼りに出来ないところで病気になり、自分のことがままならないときにその手足となって親身になって世話をしてもらい、寝食をともにするようになり、いつの間にかそれは介護者と患者という関係を超えて一人の男と女の関係になるのも時間の問題であった。病院と家との往復、夜中の手当て、食事のしたく身体の手入れなどそれらは辰夫の
全てでもあった。辰夫は身体を拭いてもらいながら「ナイチンゲール」はここにも居たんだと嬉しく感謝していた。
そんな時間の中で辰夫はいつの間にかスペイン語だけでなく現地のローカル語にも通じるようになっていた。身体も日に日に回復して元気を取り戻していた。
現場へ復帰して仕事を進ませなければと思いつつ、今の生活を何とか維持していたい甘い気持ちもあった。どうしたらカミラとの生活をこれから持つことが出来るか、このまま
別れるということは出来ないと考えていた。
そんなある日、カミラがそっと耳元で辰夫にささやいた。
「タツオ、今夜暴徒の襲撃があるよ。ここに居ては殺される。逃げなさい」
それは現場の労働者の一部が不満を募らせ辰夫の居所を調べ(責任者)捕獲し、場合によっては制裁するというものであった。

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