波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

   オショロコマのように生きた男   第22回

2011-08-27 14:46:17 | Weblog
「実は君も知っている神奈川の工場で新製品を作ることにしたんだ。そこの責任者として君を派遣したいと思ってね。」
話を聞いているうちに、とても興味が出てきた。これは面白そうだ。やりがいがある仕事になるぞ、宏は直感的にそう考えた。
「充分なことが出来るか、どうか、自信はありませんがやらせてもらいます。」「私も出来るだけ行くようにして協力するので
しっかり頼むよ。仕事が増えてきたら、パートはどんどん増やしてもらっていいからね。」社長はご機嫌だった。
事務所での仕事が自分に向いていないことが分かり、いつか社長に頼んでどこかの工場で何か仕事をさせてもらいたいと考えていたところだった。
出発の準備をしながら、不図木梨のことを思い出していた。あいつあれからどうしているのかな、会社は上手く動いているのか、もっとも自分はもう関係ないのだが、なんとなく気になっていた。
「そうだ、池田に電話をしてみよう。」彼は早速、池田の携帯に電話をしていた。「俺だ。ご無沙汰しているけど、元気にしているかい。」「野間さんじゃないですか。しばらくですね。どうしてます。」「いやー、結構楽しくやっているよ。ところでどうだい。仕事の帰りに一度会わないか。」「いいですよ。明日当たりどうですか。」「じゃあ、明日神田駅で六時ごろ」
電話を切ると、すぐ諸星さんを手招きして昼飯に誘った。「俺、今日の午後からエスケープするから後よろしく頼むよ。
何かあったら、連絡してくれればいいから、知っていると思うけど、今度神奈川の工場へ行くけど、会社へはちょいちょい顔を出すから、よろしくね。」あの日以来、彼女の宏への態度は変わっていた。何かがあったわけではなかったが、そこには二人にしか分からない大人の信頼関係のようなものが出来ていた。
宏は昼飯を済ませると、須田町へ出かけた。この界隈は本屋がずらりと並び、好きな本を探すことが出来た。考えていた
参考書を早速探し、今度の新しい仕事の参考にしたいと、彼は自分自身のこととして今度の新しい仕事に真剣に取り組むことを考えていたのだ。
翌日も仕事をそこそこに片付けると、本屋回りをしながら、池田を待つために神田駅まで来ていた。
「よう。しばらく。ご無沙汰しました。」早くから来ていたらしく、池田から声を掛けてきた。
「ちっとも変わっていないなあ。相変わらず少し太めだけど、楽してるな。」相変わらずの悪口に、ニヤニヤ笑っている。
「お前さん、アルコールがないと落ち着かないからなあ。」宏はそういうと、一軒の居酒屋の暖簾をくぐった。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿