波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

音楽スタジオウーソーズ  第35回

2015-02-08 09:44:30 | Weblog
演奏が終わって店がクローズになるのは12時をすぎる。自宅は大宮市内なのだろうが
どうやらどこかへ車を置いているらしい。深夜営業の店も最近は増えて彼女も疲れを癒すためか、どうやら行きつけの店があるらしく一人でその店へ行く。春子もその日はA子のあとをつけてその店に入った。薄暗い淡い暗光色のライトがボックスシートを照らしている。A子がその片隅に座るを見届けると春子はカウンターへ座りカンパリを注文した。
30分も過ぎたころだろうか。バッグを片手にコートの襟を立てて一人の男が入ってきた。そして真っ直ぐA子の座っているボックスのとこへ向かった。話は聞こえるわけも無く、春子は二人がそこに座るのを確認すると店を出た。
間違いなくA子には男がいる。何時かこのことを店で話すしかないと覚悟を決めていた。
そしてその時はまもなくやって来た。珍しくいつもより早い出勤だったので春子は何気なく声をかけた。「今日は早いのね。」と声をかけると「少しレッスンをしたくて」とピアノに向かった。春子は紅茶を入れると「少し休んでお茶でもしたら」と声をかけた。
「ありがとうございます」と素直にステージを降りてきて二人でお茶をする。
「最近お客さん暇ね。どうしたらお客さん増やせるかしら」と話しかけてみる。
「マスターは結構凝ってレベルの高い人を呼んでいるけど少し難しくてコアのお客さんしか分からないし、一般受けしないのかもしれないわね。」A子も言いたいことをいっている。多少不満もあるのかもしれない。「そうね。私たちも毎日聞いているけど分からないこともあるわ。」春子も相槌を打つ「でもコーラスは大分固定したお客さんが来てくれるので助かるわ。」と水を向ける。「そういえば、毎週来てくれているお客さんで中年のちょっとイケ面のおじさん貴女好みじゃない。」とずばり突っ込んでみる。
A子はそれを聞くと急に顔を赤らめ下を向いた。ずばり見抜かれたかのように黙り込んでしまった。どうやら図星だったようだ。「お付き合いしているんじゃないの」
「あの人奥さんがいらっしゃるんです」と小さい声で言う。「そうなの。」春子はそこまで言うとその次の言葉が出なかった。

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