波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

オヨナさんと私     第6回

2009-07-03 09:44:28 | Weblog
「私があなたにこうしなさいと言うことはありませんし、どうしてはいけないかと言うこともいえません。ただご主人の気持ちは少し分る気がします。
きっと、毎日の仕事の中でストレスもあるのでしょう。又、あなたとの関係も充分でないことも分ります。いえ、決してあなたが悪いと言っているのではありません。ただ、お酒の力を借りて其処に自分を忘れようとしているのですから、その様子を大事に見てあげなければ悪いほうへその力が向くのでしょうね。」
「そんな難しいことを言われても、私にはどうすればよいか分りません。どうすればよいのですか。」
ヨナさんはその問いには答えず、立ち上がり歩き始めた。決して逃げているのではないが、その場にいることにいたたまれない様子である。頭を整理したかったのかもしれない。婦人は所在なさそうに、少し不満げに其処に立ち止まり、ぼんやりしていた。「奥さん、ご主人に甘えたことがありますか。」
振り返り、唐突に少し大きな声でヨナさんは言った。
「えーっつ。何ですって。甘える?。どういうことですの」
「難しいことではないんですよ。何か食べたいもの無いか
とか、今日のおかずの味どうだった?とかそんなことですよ。」
「そんなこと言ったことも無ければ、聞いたことも無いわ。」「そうでしょうね。」「だってそうでしょう。子供でもいればいろいろ聞いたり、言ったりしていましたが、二人になってからそんなこといちいち面倒くさいし、したことありません。」「そうなんですよ。今まではそれで良かったんです。だから何も起きなかったんです。でも今はあなたがお困りになっているように違ってきたんですよね。」
話している二人の横を二人連れのおばあさんが話している二人を横目でチラッと見ながら通り過ぎて行った。
オヨナさんは先ほどの草を書いていた場所まで戻ると、又スケッチを始めた。
茎がねじれながら、のびていて、その穂先のようなところに薄ピンクの可愛い花が付いている、その細かい箇所を丹念に丁寧になぞっている。
そのうち、婦人の姿が消えていた。煮え切らない話を聞いているうちに、あきらめたのか、どうでもよくなったのか、と思っていると、お茶のボトルを二本抱えている。どうやら近くの自動販売機で買ってきたらしい。
話しているうちに、緊張したのか、興奮していたのか、のどが渇いたらしい。
「どうぞお飲みください。」と差し出された。
やはり婦人はもっと納得のいくまで、どうやら話を聞きたいのか、其処を動かなかった。

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