波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

「世界への道」③

2020-07-20 13:57:46 | Weblog
今まで考えたこともない世界への道が見えてきた。幸いお客さんの信用も少しづつ出来てきたが何より業界全体の需要が伸びているのが大きかった。何しろ車ブームで自動車の生産があがり、海外への工場生産が増加する。すると車一台に積載されるモーターが一台に8個使用される。そしてそのモーターにはマグネットが必ず必要とされる。そのマグネットの主原料を供給するのだから当然である。そんな時流に乗って、秋田、仙台、関東(栃木)、新潟、とその市場は次第に広がっていった。家庭を顧みる時間はなく、時間が出来れば親会社への顔出しとお付き合いが欠かせず、それを楽しみながら日々を暮らしていた。そんな毎日を過ごしていると次第に大切なことが守れなくなっているようだ。いつの間にか自分本位な勝手な行動に走り、大切なことも出来なくなっていた。それでも息子との時間は楽しかった。我が家での最初で一人の男とあって両親も喜んで、名前は父がどうしてもつけると言い張り、名付け親となり、娘も母の名前をそのまま付けられてしまう始末で何となく寂しかったが、これも家系として受け入れるしかなかった。銀座通いは次第に盛んになり、通う店も次第に増えてきた。それぞれ特徴があり、またそれぞれに美女が待ち構えている。酒を飲めない私は酔うことはなかったので常に冷静に行動はできたが、言動だけはそれなりにその場に合わせていた。
店内では昼間には決して見ることのないドレス姿の女性に囲まれ世間話や冗句で楽しめたが、何しろ上司が目を離さないので緊張が解けない。
それは帰りのハイヤーで見送りが終わるまで続くのである。