波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

 コンドルは飛んだ  第39回

2013-02-16 10:44:06 | Weblog
困ったもんだ。駄々っ子のように自分の主張を変えないこの部長の態度を社長は思いやった。そんなに剥きになって言うほどのことでもないし、それに会社を辞めるとまで言うことはない。大人げのないその行動を考えて「困ったもんだ」と一人ごちていた。
暫くそのまま様子を見ていたが何の動きもなく過ぎていく様子を見て辰夫は仕方なく
腰を上げることにし、専務を呼び、部長と三人で話すことにした。
「君の考えは良く聞いたし、又分からないでもない。しかし会社はこれからも発展して成長しなければならない。その為には冒険とも思われることも時には検討してトライすることも考えなければならないと思っている。確かに君の言うようにリスクは大きいし、無理かもしれない。しかしこれからのことを考えるとチャンスともいえるのだ。
慎重に検討のうえで私は出来ることなら、この計画を実行したいと思っている。それが
会社の皆さんの為にもなると思うからだ。」
「それは逆ですよ。そんな大きな負担を抱えることは会社に大きな借金を背負わせ、それをみんなで払うことになる。それよりも少しでも今の待遇を改善してやることのほうが
みんな喜ぶんじゃあないですか。私は組合からも随分話を聞いていますよ。」
話は平行線のまま進んだ。そして社長は「この辞表は一度返したい。そして君にはもう一度良く考えてもらいたいと思う。長い間会社のために尽くしてもらい、これからも
お願いしたいと思っているんだから。」と翻意を促した。
「私は考えを変える気はありません。組合の幹部からも会社へ良く話してくれと頼まれている。私が会社を辞めれば、ついていきますとまで言われているんです。」と聞く耳を持たない風である。
「分かった。それでは今週いっぱい待ってくれ。私も色々相談したい人もいるし、検討して回答する」として終わった。
部長が部屋を出た後、「専務、これはどうにもならないな。やむを得ないが辞めてもらうことにしよう。来週になったら、受理して手続きを進めてくれ」きっぱりを言うと
毅然と背筋を伸ばしていた。
「所で現地調査の予定を具体的に進めたいのだが、検討資料は出来たかね。」
「ええ、一応候補地と内容、その日程などできる範囲で作成しました。読んでいただいて希望がありましたら、言ってください。」少し分厚いレポート用紙を出してきた。
「本社のほうでも賛成でね。楽しみだと言ってくれてね。それに東京の営業所長も相変わらず強気で詳しい話を聞いてきたよ。」