波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

     思いつくままに

2013-02-05 10:13:07 | Weblog
先週の土曜日の朝、電話の音で目を覚まされた。弟が急死したとの知らせだった。
その一週間前に電話で話し、入院しているが、来週には帰宅できると聞いていた矢先だったので信じられない思いだったが、冷静に考えれば発病以来三年半入退院を繰り返し
体力を消耗しながらの療養だったので、体調がいつ急変しても仕方がなかったのかもしれない。むしろ余り苦しまないであっという間の死は当人にとっては良かったのかとも思えた。その証拠に駆けつけて会ったその顔は本当に安らかで、少し口をあけた表情も
心なしか微笑んでいるかに見えて思わず「そろそろ起きないか」と声をかけたいほどであり、冷たい頬に手を当てて見るほどであった。
四歳と年の差もなく小さいときから一緒に育ち、同じような道をたどりながら二人で人生を歩いてきた。「双子かい」と言われるほどに似ていた時期もあり、お互いにカラオケで競って歌うときは、夢中になったほどである。
しかし彼の歩いた道は私とは同じようで違っていた。兄弟で立ち上げた事業の中で
長兄(二人には10歳、14歳離れた兄がいた。)その長兄に逆らって途中から二人は
離れ、又別の会社で共に働いていた。しかしそこでも弟は社長と衝突、退社して
独立して自分の道を作った。(私はその会社で定年を迎えた。)
それから二人はおのおのの道を歩いたのだが、時折会うときは何のこだわりもなくすぐ昔に戻ることが出来た。
今、こうして弟の死を迎えて改めて振り返ると映画「エデンの東」の主人公のアロンとキャルの兄弟のことが思い出される。これは聖書の「カインとアベル」の物語をアレンジしたものだが、親に従い忠実に歩いた兄と親を同じように愛しながらその愛を伝えられなかった弟、そして弟は自分なりの行動で人生を歩み、最後に父の死の前に本当の親の愛を受けることが出来て涙する物語だった気がする。
弟もそんなキャルの辿った道を歩いたようなところもあり、先日の山田監督の映画
「おとうと」の主人公も似たような場面があった。
いずれにしても兄からすれば、弟の行動は時にうらやましく、時にその奔放さに眉を潜ませながら見ていたものだった。発病以来電話から聞こえてくるたどたどしい声は
「元気でがんばろうな」の一声であったが、その声ももう聞くことが出来ない。