波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

オショロコマのように生きた男  第60回

2012-01-03 15:48:25 | Weblog
何不自由のない、むしろ優雅な生活をして成長し立派な両親に育てられ、会社まで設立してもらい社会人としてスタートした男に何があったのか、宏には想像も出来なかった。池田や野間が活躍していた頃はまだ順調であった。二人が抜けたことの影響もあったかもしれないが、その後のことを二人とも知らないでいたのだが「私も辞めてから会社のことはあまり立ち入らないようにして
いたので、詳しいことは知らないですけど今は後から入った内川が中心になった仕事をしているらしいんですよ。「知らないなあ。」
「それで木梨はどうしたの。」「それがね、台湾の仕事が始まって通訳や処理を任せていた女性がいたでしょう。」「ああ、それは聞いていたけど。」その女性とねんごろになって、台湾へ移ったらしいんですよ。」「だって、彼は結婚して子供もいるじゃないか」「いや、それはそうなんだけど、」「まさかそのまま帰ってこないって言うことじゃないだろう」「いや、それが向こうでその女性と暮らしていて、子供もいるらしいですよ。」「おい、おいそれは穏やかじゃないな。本当なのか。」「私も話だけですからね。にわかに信じられないんですけど。」「驚いたね。そんな事があるのかね。それで会社はどうなんだ。」「私たちがいた頃の人たちは殆どいなくて、内川が仕事があるときだけ人を集めて個人の下請けみたいに仕事を続けているらしいですよ。事実上はクローズ状態でしょうね。」「そうか。分からないものだな。結局言ってみれば素人集団でスタートしてブームに乗って、一時期会社は成長したけど長続きしなかったと言うことか。私は辞めたくてやめたわけじゃなかったけど、T社の木村さんへの義理があって辞めたけど、そして君も私が呼んでしまっていなくなったわけだけど、その時期が分岐点だったかもしれないね。」
宏は今更ながら、人生の移り変わりを目の当たりにする思いだった。
「ところで今回の話はどういうことなの。」やっと本題に戻った。「つまり、N製作所としては本業ではないH社からの仕事を
専門に任せられる人間を探しているってことらしいですよ。それでマグネットに詳しい野間さんを推薦したいと思っているんですが、どうですか。」「知らない会社じゃないけど、俺で出来るかな。」「野間さんなら大丈夫ですよ。そういっちゃあ悪いけど、
もう何社か経験済みですものね。」池田にしては珍しく皮肉っぽい言い方だった。しかし今の野間にはその池田の言葉も、あまり
きにならなかった。そんなことより現在に置かれた自分の立場とこれからのことを、自分なりに想像していたからだ。