波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

  オショロコマのように生きた男  第49回

2011-11-25 12:56:59 | Weblog
単刀直入に話すことにした。何も飾らずありのままに正直に話すことしか出来なかった。社長は黙って話を聞いていたが、その表情には不快感はなかった。むしろ大きな関心と興味を持った感じにみえた。そしていくつかの質問があり、分かる範囲で答えた。
「大体のことは分かった。しかし希望額の20億はかなりの金額であり、当社の力では到底無理であり、親会社の協力がいる。
そのためにはこの話を報告し、調査と審査が必要になる。従って時間がかかるが結論が出たら連絡するのでそれまで待ってほしい。改めて連絡する。」その言葉を聞いて野間は「よろしくお願いします。お待ちしています」と立ち上がった。
町田では社長が単独で動いていた。取引先の大手の会社へ同じような条件で売却を持ちかけていた。先方はすでにある程度の内容を調査していて、その価値を費用対効果で値踏みをしていた。
そんな事もあり、その交渉はかなりの厳しい評価が出ていた。「提示金額はその半分でも無理だ。こちらで査定をして解答するが、時間もかかる」とあくまでも消極的であり、その実現の可能性は低かった。
T商事から連絡があり、ぜひそちらの社長と直接お会いしてお話を伺いたい。査定上参考にしたいので、ぜひ一度お越し願いたい
との申し出があった。野間は社長、専務とともに三人でT商事へ出かけた。形式的な訪問だと思っていたが、その内容は必ずしも
友好的とはいえなかった。間接的ではあったが、売却金の再考を提示されたが妥協点に達するような話にはならなかった。
そして数日後、「残念ですが、今回の話はなかったこととしてお断りをします」という正式な回答となった。
やはり価格の点でやや無理があり成約とはならないで終わった。
野間は自分の出来ることとして勤めを果たしたつもりであったが、結果としては何も出来なかったことになった。
それは自分のこれからの立場に大きく影響することを感じていた。せっかく緒についていた新しい仕事も、又ここで終わってしまうかもしれない。始まったばかりでもあり将来性もあると信じていたので、このまま終わることには納得できなかった。
これ以上社長や専務に頼ることは出来ないが、自分の力で出来ることはないか。
わずかな時間の間では会ったが、野間は地元の人との交流があった。その中に工場建設を受けてくれたW建設があったことを思い出した。話だけでもして相談してみよう。野間はそう決断するとすぐ行動に移った。