波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

  オショロコマのように生きた男   第48回

2011-11-21 13:06:55 | Weblog
二人ともこの修羅場をどうすればよいか、どうすれば解決できるか、見当もつかず途方にくれていた。経験もなければ苦労らしい苦労もしたことのない二人だけに何の策も浮かばないのは仕方のないことであった。
専務は何と言う当てもなく、長野の工場にいる野間に電話をしていた。「野間君、君にだけ伝えるんだけど今社長とも話したところだが、会社の財政状態が悪いことがはっきりしてね、ちょっとこれから先このままでは会社が維持できないので、どうしたもんかと困っているんだが、何か良い考えはないかね。」何時の間にか電話ではあったがそのまま事実を話していた。社内では誰よりも信用していたし、話し合える人間でもあった。そして無意識に野間の知恵を当てにしているところもあった。
話を黙って聞いていた彼は始めは驚いたように何度も念を押していたが、話を聞き終わると、しばらく黙っていたが、「専務にはいつも大変お世話になっています。何とかお力になれるように考えてみたいと思いますので、少し時間を貸してください」とだけ言って電話は切れた。その後、野間はしばらく呆然としていた。やっと落ち着いて仕事が出来るようになると思っていた矢先である。信じられないような事実を聞かされて動揺しないといえばうそになる。悔しいような、今でも信じられないような複雑な思いであった。社長のことも専務のことも詳しくは知らない。そして又知る必要もなかった。社内のことも仕事の内容が違うこともあって関心もなく、気にもしていなかった。従って何故こんなことになったのか、そして何時ごろから悪くなっていたのか、
知る由もなく、見当もつかなかったのである。
ただ、専務の電話から聞こえる声には誇張もなく、真実な深刻さが伝わってくるだけだった。そこには素朴な真実しか感じることはなく、何とか自分で出来ることを考えなければと思う事と余り時間がなさそうだということだけだった。
仕事を工場に頼むと早速町田の本社へと向かった。専務に直接会い、もう一度念のために確認することと、その時自分の考えを話すためであった。
長野から町田への列車の時間がこんなに短く感じたことはなかったほど、あれこれと考え込んでいた。
「専務、大体話は分かりました。私も売却しか方法はないと思います。ついては相談して検討をお願いしたい人がいますので、
これから出かけてきます」
野間は村田を通じてT商事の社長にあってもらう約束を取り付けていた。T商事の親会社へ話を持ち込み希望価格での買い上げを
願うつもりだった。