波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

  オショロコマのように生きた男   第44回

2011-11-07 13:35:29 | Weblog
初めての経験で最初は戸惑いがあり、どうすればよいかと落ち着かなかったが次第にいつもの宏になっていた。彼女も初めての出会いではあったが、時間がたつほどによそよそしさがなくなっていた。さりげない動作やあまりべたべたしない冷たさが彼女の気持ちを引き寄せるかのようにリードされるままになっていた。「少し静かなところで休みましょう。」そう言うと、いつか木村専務に紹介してもらったことのあるラウンジでバンドの入っているクラブへ連れて行った。メンバー制になっていて、一般の客は入れないのだが、木村氏の名前を告げるとすぐ席へ案内された。薄暗い照明の中を歩き、ボックス席へ二人は並んで座った。
身体が触れるほどになり、アルコールのせいもあり二人は肩を寄せ合うほどになっていた。相変わらず宏はソフトドリンクだったが、彼女はカクテルを頼んで美味しそうに飲んでいる。中央にフロアーがあり、何組かの男女が踊っている。
バンドが静かなムード音楽を流し、ここは別世界の感じだ。すっかり雰囲気に溶け込むかのように二人は黙って肩を寄せ合っていた。このまま一夜を過ごし、後は成り行きに任せるしかないかと安易に考えていた。「ちょっと踊ろうか」と言うと、彼女は素直についてくる。肩に手を置き、もう一方の手を腰に手を回すとその豊満な肉体が実感として伝わってくる。
踊ると言うよりも、ただ立っているだけのような状態であったが、宏はそれで満足であった。そのうち彼女の様子が少しおかしく感じてその表情を見ると、涙が出ている。何時の間にか泣いていたのだ。
きっと、自分を置いていってしまった彼氏のことを思い出したのだろう。黙って席へ戻り、しばらくそっとしていると、「私、このまま帰ります。」と言い出した。「そう、それが良いと思うよ。今はつらいと思うけど、きっと又、良い話が出てくると思うしよ。」色々言わなくてはいけないかなと思っていたが、その言葉を聴いて余計なことは言わないほうが良いと、気の変わらないうちにとそこを出ると、近くの駅まで送り、別れることが出来た。
時間も遅く、終電に近かったが、何とか間に合い、帰ることが出来た。部屋のベッドに倒れるように寝転ぶとどっと疲れが出て
そのまま眠ってしまったらしい。途中で気がついてシャワーを浴びて、さっぱりしてその日のことを考え、あんなことでよかったのかな、自分がしたことは何だったんだろうと振り返っていた。ちよっぴり大きな魚を逃がしたような気持ちが残ったのは
何だったんだろうと思いながら、