波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

  オショロコマのように生きた男   第43回

2011-11-04 09:33:17 | Weblog
気持ちが落ち着かないままでの食事は、何となく淋しい雰囲気であったが、少しビールが入ったこともあり少しづつ気持ちも変わってきた。そんな様子を見ながら宏は声をかけた。「大島って行った事無いけど、良いところなんだろうね。一度行って見たいね。」何しろ好みの若い女性がいて、二人きりである。知らない人が見たら変に思ってもおかしくない光景でもある。
「食べ物も美味しいし、気候も良くてとても良い所ですわ」少し顔が赤くなり、表情も明るく感じる。横に投げ出すように出ている足が何とも言えず魅力的であった。やがて食事も終わり宏は少し核心に触れることにした。
「二人ともまだ若いのだから、慌てないでここで一度冷静にもう一度本当に将来のことを考えてみたラと思うけど」とやんわり言ってみる。「どう考えても、今は彼のことしか考えられないんです。分からないけど、東京へ着てから変わったみたいで島に居たときは、こんなに冷たくなかったのに」と又表情が曇ってくる。そして「誰か好きな人でも出来たんでしょうか」などと聞いてくる。「いや、詳しいことは聞いてないけどそんなことは無いと思うよ。今の彼の頭には病院のことしか頭に無いんじゃないかと思う。男ってそんなもんだよ。」そう言いながら宏は自分のことを考えていた。自分はどうなんだろう。
家庭のことをどれだけ大切に思い、行動しているだろうか。普段は殆ど妻や子供のことなど頭に無い自分がこんな話をする資格など無いことを、いや逆に言えば、それだからこそいえる話なのかと思ったり、話しながら自分の心が揺れていることを感じていた。「人間って面白いもので大きくなるにしたがって、気持ちや考えが少しづつ変わっていくんだ。当たり前だと思うけど、成長していくってことになるんだろうね。だから、若いとき思ったり考えていたりしたことが、ずっとそのままと言うことは無いと思うよ。そしてそれが本当のものであれば、結ばれることもあるし、違っていたなと思ったら、変わることもあるかもしれないんだ。だから今は慌てないで少し時間をかけて待ってみることが大事だと思うけどね。」
宏にも女心を落ち着いて理解するほどの考えは出来ていないし、そんなものはなかった。
不遜な言い方をすれば俺がこの女と付き合いたいものだと思うぐらいのものだった。彼女は納得したようではなかったが、いつまでもこのままここに居ることはできないと思い、「もうちょっと、付き合ってくれるかな」と言いながら立ち上がった。