波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋     第43回

2008-11-24 10:42:06 | Weblog
松山のサラリーマン生活も新しい会社で定着し、落ち着いてきた。自分の出世は
あまり望めなかったが、あまり気にならなかった。所長の小林は取締役になり、役員として仕事も煩雑になり、大変のようである。
業界では、毎月会議が開かれており、松山は担当者として出ていたが、この会は
同業者の集まりで表向きはきれいでも、本音のところはかなり微妙な所があり、それぞれが、相手の発言を警戒し、本音のところは見えず、探りあいになっていた。
しかし、公けに機関への書類提出の義務もあり、業界としての責任を果たすためにはやはり、全体意見としてまとめる必要があった。期間ごとの実績、前年度対比、
そして今後の見通しなどはお互いに報告義務があり、その集大成作業が行われる。松山は、この会議は息抜きとして進んで出席していた。
仲間が集まり、上の顔色を気にしないで発言できる場である。(会社を代表しての立場であるが、)市場での縄張り争いのような小競り合いも無いこともないが、穏やかな話し合いである。「C社のT氏が、最近見えないけど、どうしてるの。」T氏は天下りでC社へ役員として招聘された人で、大物だった。会社が銀座に近いということもあった、仕事帰りには近くの飲み屋で食事をした後、クラブを何軒かはしごをするのが習慣だと聞いていた。松山も何回かお供をしたことがあり、そのきらめくような高級クラブへ連れて行かれたときの興奮は忘れられない。
彼は其処に行くと、高い酒を飲み落ち着くのかと思うと、すぐ別のクラブへ移動するのだ。松山は後を追いながら、この人は何が目的なのかといつも考えていたが、その彼が、会議に出てこなくなった。「実はね。ちょっとしたトラブルがあって、静養中なんだよ。」代理できていたその会社の若い課長が言った。「どうしたんですか。」「車で事故ちゃってね。当分来れないと思うよ。」「そうだったんですか。気をつけなくちゃね。」聞いていると、その場にいる一人一人が、みんな生活を背負い、責任を背負い、戦っているわけで、楽ではないのだ。
親しくしていた会社の課長は、家庭がありながら、会社の女性と男女の関係になり、それが明らかになり、本社から左遷されて、工場勤務になった人もいる。表面は何も変わらない様に見えながら、人間関係が静かに動いているのである。
それは、誰にも気づかれないで水面下で変わっていたのである。
松山はそんな話を「そんなことが実際あるのか、」と半分信じられない思いで聞き、まだ実感として感じることは出来なかった。