く~にゃん雑記帳

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<ACCU奈良・文化遺産セミナー> 世界遺産研究家・久保美智代さんが講演

2014年02月02日 | メモ

【県への配慮?「若草山モノレール構想」座談会の議論は不発】

 ユネスコ・アジア文化センター文化遺産保護協力事務所(ACCU奈良)主催の文化遺産国際セミナーが1日、奈良市のならまちセンターで開かれた。〝旅する世界遺産研究家〟久保美智代さんが「世界遺産、わたしが選ぶベストテン」、国士舘大学アジア日本研究センター客員研究員の澤田正昭氏が「壁画保存の国際交流」と題して講演。この後、「世界遺産をめぐって~その保存と活用」をテーマに座談会が行われた。

    

 久保さんは愛媛県八幡浜市出身で、愛媛朝日テレビの元アナウンサー。これまでに世界遺産981カ所のうち3分の1を超える357カ所を〝踏破〟している。この日はベトナム衣装のアオザイ姿で登壇し、「飛行機代を使わずに世界約60カ所を巡ることのできる、非常にお得なセミナーです」と話し始めた。

  

 まず取り上げたのは〝アドリア海の真珠〟と呼ばれる「ドゥブロヴニク旧市街」(クロアチア、上の写真㊧)。1991年に始まった内戦で建物の7割が全半壊したが、人々は以前と同じ石材を使って昔のままに修復した。次に「アブ・シンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群」(エジプト、写真㊨)。ダム建設で水没の危機に瀕していたが、ユネスコの呼び掛けで高台に移築された。「これを機に人類の宝を国・民族・宗教を超えて守っていこうという考えが生まれた。世界遺産はここから始まった」。

 続いて〝負の遺産〟として「ナチスドイツの強制収容所」(ポーランド、下の写真㊧)、産業遺産として「ヴァールベリ・ラジオ放送局」(スウェーデン)などを挙げた。「ケルン大聖堂」(ドイツ、写真㊨)は周辺に超高層ビル構想が浮上したことで一時、危機遺産リストに加えられた。「古代都市アレッポ」などシリア国内の世界遺産6件は内戦の激化で昨年、その全てが危機遺産になったという。

 

 「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」(ユネスコ憲章の前文)。久保さんは「美しい自然遺産など人類の宝も爆弾1つによって壊される。だからこそ、これからももっと多くの世界遺産を見て回って、心の中に強固なとりでを築いていきたい」と話した。

 最後に発表した久保さんの「心に残る世界遺産ベストテン」は以下の通り。①アブ・シンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群」(エジプト)②「ドゥブロヴニク旧市街」(クロアチア)③アンコール(カンボジア)④イスタンブール歴史地区(トルコ)⑤カッパドキア(同)⑥「アウシュヴィッツ・ビルケナウ ナチスドイツの強制収容所」(ポーランド)⑦ハワイ火山国立公園(米国)⑧グラン・プラス(ベルギー)⑨姫路城⑩ペトラ(ヨルダン)

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 座談会は講演者2人がパネラーになり、主催者ACCU奈良の事務所長西村康氏がコーディネーターを務めた。澤田氏は「マチュ・ピチュ遺跡」(ペルー)の人数制限などを踏まえ「遺跡保存と観光促進をどう秤にかけるか、保存と活用のバランスが問われている。観光もあくまで世界遺産あってこそ」と指摘。またアブ・シンベル神殿の移築を例に「遺跡はいったん分割し動かすと、いかに正確に復元しても遺物になる。景観も含め元々あった環境そのものが遺跡。保存の在り方をもう一度考える必要がある」と話した。

    

 久保さんは近代的な橋の建設によって文化的景観が壊れたとして登録が抹消された「ドレスデン・エルベ渓谷」(ドイツ)を例に景観保全の重要性を強調した。奈良県内ではいま若草山でのモノレール建設構想が話題を集めているが、久保さんは一般論として「バリアフリー(のための整備)は必要だと思う。ただ人工的なものはできるだけ排除すべきではないか」などと話した。

 モノレール構想については若草山一体が世界遺産「古都奈良の文化財」のバッファゾーン(緩衝地帯)になっていることもあって、ユネスコの諮問機関イコモス(国際記念物遺跡会議)の国内組織「日本イコモス国内委員会」が懸念を表明。学識経験者も計画に反対する会をこのほど立ち上げたばかり。

 この日の講演者、久保さんは日本イコモス国内委員会の委員も務める。それだけに座談会ではモノレール問題について活発な議論が期待された。だが、司会者側は座談会の冒頭でモノレール問題に触れようとした久保さんの発言を遮るなど、この問題に極力触れたくない様子がありあり。それもそのはず、セミナーは奈良市とモノレール構想を打ち出した奈良県の後援。しかも主催者のACCU奈良は県と市の協力を受けて1999年に開設され、事務所も奈良県奈良総合庁舎内に置く。

 座談会の最後にパネラーの澤田氏が「久保さんはモノレールに反対なのでしょうか」と率直な意見表明を促す場面があった。だが、司会者は「記者がいて明日の朝刊に書かれるかもしれないので」と久保さんに答えさせず、「この日のセミナーが(モノレール問題を)考える契機になれば」と締めくくった。しかもその後に多分予定していたはずの聴講者の質疑応答の場も設けずに終わってしまった。活発な議論を呼び起こすどころか、発言を封じ込めようとするかのような動きはどう理解したらいいのだろうか。

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