【怒りは毒。怒りをどう鎮め心さわやかに生きるかがカギ】
1週間前の<BOOK>「がんばる人ほど老化する ストレスをかわす技術」(竹内薫著)の中で触れた精神科医・名越康文氏の講演が14日、京都府精華町の「けいはんなプラザ」であった。名越氏は奈良出身で京都精華大学客員教授。テレビのコメンテーターなどとしても活躍している。この日は「心がフッと軽くなる瞬間の心理学」の演題で講演し、「心の中の怒りがストレスを生む。怒りをセーブすることが心のエネルギーを浪費させないことにつながる」と強調した。以下は講演の概要。
うつ病患者の治療を始めてまもなく気づいたことがある。治療開始後1カ月ぐらいでいったん安定または良くなるが、それをピークに気分が沈み込み低位安定状態が続く。こうした患者の多くに共通するのが「早朝覚醒」。寝ては覚め、覚めては寝るうちに、ふとんの中で否定的なことや過去の嫌な思い出、妄想などの「自動思考」にとらわれる。自動思考とは考えようと思わないのに頭の中につい浮かんでくること。これはうつの患者だけでなく誰にでも起こる。では、なぜ自動思考が重苦しく否定的なことばかり連想してしまうのか。
心の成り立ちを考えてみると、幼少期の体験・経験が基礎になっている。赤ちゃんは泣いて母親に訴えるが、その大半は不快なとき。喜怒哀楽にあてはめると「怒」。人生の初めの時期に「いやなことがあれば泣いて怒り、怒れば解決してくれる」ということが刷り込まれる。しかも自分にとって大切な人に対して、よけいに怒りやすくなる。寂しさも怒りにつながり、それが暴力につながることも多い。
心の中に怒りはストレスになり、自分の能力を減退させ、人生をだめにしてしまうことさえある。私はこれを「怒り毒説」と呼んでいる。1つ目の怒りは「カッ、ムカッ、イライラ」。人は小さなことでついイライラしがちだが、そんな時には深呼吸して気をそらしたりして、怒りを持ち越さないこと。どうしても腹が立つ時には「私は怒っている」を3回唱える。ゆっくり、冷静に。そのうち怒りは消えていく。こうしてネガティブな感情を自分でコントロールできることが分かってくる。
怒りの2つ目は「暗さ」。暗い気分が怒りにつながる。特に朝の気の持ちようがその日1日に影響する。だから朝の気分を5%でも上げてくださいと患者には話している。その方法は深呼吸でも散歩でもヨガでもいい。深呼吸なら心の中の悪いガスをはるかかなたに飛ばすイメージで20~30秒、ゆっくり吐き出す。熱めのシャワーを背骨にかけるのもいいだろう。その人なりに無理のないやり方で、まず2週間続けてみる。そのうちに体と心が軽くなって生活習慣になっていく。
怒りの3つ目は「見下し」。自分ほどえらい人はいないと思っている人は周りの人がバカに見えてしかたない。周りの人を軽んじることは「自分は正当に評価されていない」といった怒りの感情を呼び起こす。こうした怒りを自らセーブし、さわやかな1日を過ごすことができるようになれば、自分の中に大きなパワーが生まれる。それがうつの予防にもつながる。