経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

重要だけど道遠い財政のコントロール

2022年10月09日 | 経済
 日銀出身の門間一夫さんが『日本経済の見えない真実』の終章に「重要性を増す財政の役割」を持ってくるとは、少し意外だった。財務省の領分は犯さないのが日銀の不文律だと思っていたのでね。むろん、門間さんの主張は、必要だし、正しい。マクロ経済を運営するのに、金融政策と需要管理は車の両輪で、独立して行うのは無理があり、日銀が財政に対して主張することは、政策的な意義がある。

………
 2014年の異次元緩和第2弾は、巷間、消費増税を促すものだと言われた。2%の物価目標を達成したいのであれば、日銀は、消費を弱める増税を諫めるべきだったろう。「財政再建がなされなければ、金利が上昇に向い、金融緩和の効果が失われる」というロジックは、現実味の乏しいものだった。もちろん、財政とは関係なく、日銀がやれることをやるというのも、一つの在り方ではある。

 もっとも、財政金融を整合させる以前の問題として、門間さんが提言するところの「財政運営に関するマクロ経済分析」が、まったく、なっておらず、どのくらい緊縮しているのかも、よく分からないありさまである。このあたりは、ぜひ、日銀にも担ってもらいたい。もし、一気の消費増税によって、どのくらい物価にデフレ圧力がかかるかを、事前に示されていたら、上げ幅を刻むなどの冷静な政策対応ができていたかもしれない。

 また、これも門間さんが指摘するように、負担・給付に関する行政インフラの整備も急務である。消費増税が政治的に刻めなければ、欧米では既に制度化されている定額給付で還元し、デフレ圧力を緩めることもできたはずだ。需要管理を行うのに必要なインフラがないために、調整しようにも手段に困るのが現状である。いきおい、効果の薄いバラマキをしてしまうことになる。 

 そもそも、無理な緊縮をしてしまう背景には、「財政赤字は将来世代の負担で、政府債務の残高の削減が必要」といった誤った思想がある。ミクロの見方を安易にマクロに用いる典型的な間違いで、門間さんも疑問を呈しているわけだが、これが財政当局の公式見解なのだから始末が悪い。正直、どうすれば誤解がとけるのか、途方に暮れる。これでは、適切な需要管理ができるわけがない。

………
 改めて説明すれば、マクロでは、借方と貸方が包摂され、その両方を将来世代が引き継ぐから、差し引きゼロとなる。あとは、国債を始末する際には、将来世代の中で、資産のバラツキがあるので、それに合わせて、どう処理するかの問題になる。いわば、資産課税をどうするかが面倒なだけで、一般にイメージされる、消費増税や社会保障の削減の必要性とは、遠いところにある。

 また、将来世代がどのくらいのモノやサービスを享受できるのかという意味での損得は、債権債務の大きさとは、直接、関係がなく、供給力が形成されているかどうかにかかっている。すなわち、財政赤字によるクラウディングアウトで、成長が阻害されない限り、将来世代の得るものが小さくなるわけではない。消費の低迷で長くデフレに沈んできた日本が、それに当てはまらないのは言うまでもない。

 米国は、リーマンショック後の回復期に緊縮財政をして、景気を停滞させた反省に立ち、コロナ後は積極財政に打って出て、いち早く、コロナ前水準を回復する成果を上げた。反面、やり過ぎのところがあり、需要がモノに集中し、供給のボトルネックが現れ、物価高を煽ることになった。どのくらい需要を出すのか、対象は大丈夫なのか、他山の石に学ぶべきことは多い。しかして、日本は、「財政再建は善」の思想をなんとかしないと、財政金融の統合戦略を語ることすらできない。

(図)



(今日までの日経)
 進む円安 細る外国労働力。インフレ耐性、所得で二分。消費、届かぬ「コロナ前」。石炭、なお最高値圏。中国成長率3.2%に減速、アジア新興国を32年ぶり下回る。中国、海外マネー流出続く。OPECプラス、200万バレル減産で合意。為替トレンド 転換点なるか 円安一服感。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 10/5の日経 | トップ | 10/12の日経 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事