経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本は別でないからこそ

2011年12月19日 | 経済
 一面特集の「ユーロ・遠い安定」は、今日で終わり。良い内容だったね。トリは、エースの滝田洋一さんだ。タイトルは、「日本は別は本当か、改革怠れば危機飛び火」である。欧州危機を経験して、経済や財政の安定にとって何が重要なのかの認識が深まったように思う。むろん、「消費税しかない」は論外である。

 教訓の第一は、中央銀行を持つことの有難さである。財政赤字も経常赤字も大きい米国が安定しているのは、バーナンキFRBがあればこそ。トリシェECBとの対応の違いが出たというところだろう。日本が「東アジア共同体」を作って日銀を手放すことは、あり得ないが、タカ派の日銀総裁が任命される可能性がないわけではない。もっとも、日本の場合、日銀が緩和しても、財政は緊縮するという非協調ぶりの方が問題だ。

 第二は、経常黒字の重要性だ。滝田さんも指摘するように、これは国債の国内消化と表裏一体の関係にあり、日本の巨額国債を管理する上で欠かせない要素である。筆者は古いから、経常収支の「天井」を意識して経済運営をしていた高度成長期のことを思い出してしまう。かなり先だろうが、こうした観点が再び必要になる時代が来るのかもしれない。他方、日本の財政当局は、無闇な緊縮財政でデフレを進め、円高を招いて輸出産業を潰そうとしているのだから、本当に何をやっているのかという思いである。

 第三に、成長力の大切さだ。稼ぐことができなければ、借金は返せないという、当たり前の真実である。イタリアは、財政のプライマリーバランスは達成しているし、国債残高のGDP比は日本より低い。しかし、それらは、まったく役に立っていない。ある程度の成長があってこそ、そうした指標は評価されるからだ。日本の財政当局は、それらの指標を改善しようとして、一気の増税を目指し、成長の悪化を顧みないのだから、本当に付ける薬がない。

 さて、滝田さんは、経常収支の観点から、企業の海外投資の増大を懸念している。懸念は分かるが、他方で、良い投資であれば、所得収支の黒字を積み上げる方向にも働く。日本の経常収支の黒字は、世界一の債権国だからで、それゆえ、円高で貿易収支が赤字になったとしても、当分は心配がなく、政策対応のゆとりがある。むろん、急激な増加となると、不安も出てくるが、そうしないためにも、余計な円高にはしないことだ。蛇足だが、世代会計論者も、財政赤字を責めるだけでなく、世界一の債権国にした前世代の貢献を評価してもらいたいものだよ。

 最後に、滝田さんは、財政赤字縮小の遅れを指摘し、財政と経済の立て直しを強調する。もっともな話だが、野心的増税ではなく、堅実策が必要だ。ちょっと意地悪なことを言うと、滝田さんがバラマキの例として挙げる、高年収世帯の子ども手当は1300億円、整備新幹線は400億円(しかも整備済路線の貸付料で賄う)、高齢者医療の1割負担継続は2000億円と、大したものがない。緊縮財政による円高の後始末で必要となった、エコカー補助金3000億円、車重量税減税3000億円に比べれば、小さいものである。

 IMFも、日本のことを心配してくれているようだが、日本の財政当局の主張とそっくりの処方箋を実行しようものなら、かえって資金は日本離れを起こしてしまうのではないか。筆者は、財政と経済の立て直しが必要な点で、滝田さんと一致する。筆者も「日本は別だ」とは思わない。だからこそ、成長を捨てて緊縮財政に走るという欧州と同じ失敗をしてはならないのである。

(今日の日経)
 電力燃料費6600億円増。ボーナス2年連続増。一般会計90兆円に。エコノ・危機封じは中銀頼み、緩和姿勢割れる。火力新増設に入札義務。イタリア債務が最大の懸念・バーク。核心・米国の自給が安保に投影・脇祐三。中国・拿捕承知の違法操業。強攻策で英与党の支持回復。低線量被曝で報告書。課長時代・三菱信託岡内欣也。経済教室・人民元・村瀬哲司。

※昨日の読売とは対照的な一面になったね。※去年は裏切られたが、消費に結びつくか。※脇さん、読ませるね。国際記事の厚みが日経の良いところ。海外の政策の知恵を見て、記者は鍛えられる。日本の稚拙な財政しか見てないと、記者も凡庸になるのだよ。※取り尽くした上に違法とは。※FTの評価とは逆か。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 将来を構想し過去に学ぶ | トップ | 12/20の日経 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事