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 昨日の撫勢さんの感想に関連して,最近の少年院教育の変化について書かれた論文の紹介をさせていただきます。前に「心からのごめんなさい」という本の紹介をしましたが,その本の陰の主人公が,執筆当時広島少年院首席専門官の向井義さんです。
 
 家裁月報57巻12号(平成17年12月)掲載の,「少年院における年少少年の処遇について(「発達課題」の視点からの構築~宇治少年院の実践から~」がその論文です。
 門外漢の私の紹介ですから理解の誤りがあるかも知れませんが,次のような内容と思いました。
 
 14歳から16歳の年少少年の処遇については,ライフサイクルを通した発達的な視点が重要である。ライフサイクルとは,思春期に入り,少年が大人として自立していく過程において人格形成に必要な,その年代ごとの課題の変化をいうもので,エリクソンの仮説ともいわれ,0歳から22歳までの各年齢分布ごとに,その年代ごとに確実に体験していることが望ましい事柄,すなわち発達課題を明示し,非行少年にはどこかの段階で特定の発達課題を適切に体験できなかったことがうかがえ,それが非行の要因となっているのでないか,と考え,その発達課題を早期に見つけ出し,少年院で改めてその課題を体験させ,いわば育て直しをしてみよう,という試みです。
 
 例えば年少少年の前期には,集団同一性(同一世代への所属意識)が,後期には個の同一性(同世代とは違う自分への自信)が発達課題とされ,その喪失が引きこもりや自殺,反社会的行動に結びつきやすい,というのです。
発達課題が体験できなかった原因として,経済問題や親の養育態度,学校での不適応などの社会的要因と本人の資質や性格,発達障害等の個人的要因が考えられ,それらが非行のリスク要因となるが,他方発達課題が克服できないものの非行に至らないケースの分析から保護因子も分析し,少年院教育では個人別の発達課題をテスト等で早めに発見して対応教育プログラムを組み,さらにその課題に有効な保護因子についても集中的に教育することが効果的と,いうものです。
 
 詳細は,論文に譲りますが,これまでの個別処遇プログラムよりかなり教育目標が絞られ,その少年固有の問題点に迫るため,宇治少年院でも少年の見違えるようなやる気の引き出しに成功しているようでした。
 このような試みが全国の少年院に広がっている様子もあるようです。「花」

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