以下の文章は,最北の地のある中学校の一年生が取り組む「社会に目を向ける」というテーマの下に,関心のある職業についてメール等で調べる学習の一環として日本裁判官ネットワークホームページに質問のあった事項に対する私の回答です。自分なりに正直に書いたつもりですが夢多き中学生を落胆させたかなと心配もしている次第です。しかしなかなか良いアイデアの学習と思います。「花」
日本裁判官ネットワークにアクセスをありがとうございます。私たちは現職裁判官が集まって司法機能の強化と開かれた司法を目指して頑張っている団体です。
ご質問に私個人の回答をしてみたいと思います。他の人からの回答もあるかも知れませんのでそれも参考にしてください。
① いまの職業に就かれたきっかけは何ですか。
裁判官になるには司法試験に合格することと司法修習という実務訓練を受ける必要があります。私はこの司法修習の時の裁判官の発言の自由さにあこがれました。会社や官庁では最終的な判断はその組織がする,ということになりますから個々人の意見は参考ということになりますし,上司の意見が優先します。
裁判所では裁判に関する意見は,年齢,性別,先輩後輩,上司部下,経験の長短など一切関係なく,自分の良心に従って自由に述べ,決定権も平等です。
三人で裁判する場合にも,裁判長の意見を他の二人が多数決で否決することもたまにあります。自分が納得できない意見には従わなくて良いというのは責任が重くなる反面,他の職業にはない魅力です。
② 働いていてうれしいと思うことは何ですか。
どんな事件でも自分の意見で重大な結果が出てしまうことは,大変な重圧になります。 他のひとの意見に従って判断するのではなく,あくまで自分の良心に従って独立して判断するのが仕事だからです。
特に有罪,無罪をどうするか,刑務所に入れるべきか,釈放するのか,損害賠償の前提となる責任がどちらにあるのかなど大変迷い,悩むことが少なくありません。でも悩んだ末に出した自分の判決が高裁,最高裁で支持されたり,一生懸命書いた判決や和解案に事件関係者が納得してくれた場合などは,それまでの悩みや苦労が報われたと,大変うれしい気持ちになります。
③ 働いていて大変だと思うことは何ですか。
裁判はどれも,訴えた側が証拠を出し,訴えられた側がそれに反論する証拠を出し,それを繰り返す中で裁判官が事実を認定するという手続きになっています。
しかし,証拠の中には偽造ではないか思われるものがあったり,信用できない証人もいます。そのなかで間違いないと思われる事実を認定するのはなかなか大変で,裁判官の苦労の大半がこの事実認定の困難さをめぐるもの,といっても過言ではありません。
④ やりたい仕事をするために中学校でどんなことを頑張ればよいのですか。
司法試験は大変難しい試験ですからまず勉強はしっかりやってください。
また裁判官の仕事は激務ですから,からだを鍛えておくことも大切です。
独立して仕事をすることが独善とならないようにするため,ひとの意見を謙虚に聞く柔軟性が必要な裁判官には,とんぼの目のような複眼的思考ができないと困ります。
そのためには,いろいろなことに好奇心を持つことや関心を持ったことについて活発に行動すること,本を読むことが大切と思いますが,特に友達とよく話をして,友達の意見の良いところを取り入れて自分の意見を言えるように心がけることも良いと思います。
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