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死刑判決は多数決か?全員一致か?

2008年03月13日 | チェックメイト
 超党派の国会議員でつくる「死刑廃止議員連盟」(会長・亀井静香衆院議員)が、市民の裁判員と裁判官計9人が多数決で決める量刑について、死刑判決の場合に限っては全員一致を条件とすることを柱とする裁判員法改正案を提出する方針を決めた。

 賛否は保留するが、果たして全員一致を要求するのが良いことなのか、色々と考えさせられた。
 確かに昔から、死刑判決には裁判官の全員一致を要求すべきという議論がある。実際にも、最高裁判決で反対意見付きの死刑判決というのは見たことがない。下級審判決でも同様に全員一致を追求する運用がされている可能性もあるが、少数意見が表示される制度になっていないので外からは分からない。唯一、例の袴田事件の1審判決のみ、元裁判官の告白が真実だとすれば、2対1の多数決で死刑判決がされたと公になった例ということになる。
 よく考えてみると、裁判員にとっては、全員一致を要求された方が、悩みは確実に深くなると思う。もし自分1人だけでも反対していたら死刑にならなかったことになるが、本当に自分の判断はあれで正しかったのだろうかと後で深刻に思い悩む人が出て来るかも知れない。多数決であれば、そういう形の悩みにはならないだろう。
 何よりも、全員一致制は、評議の秘密と両立しない部分が大きい。この例でいえば、死刑判決が出た瞬間に全員の意見が判明してしまう。評議の秘密の最も重要な部分が空文化することになる。評議の秘密には、結論は合議体の全体のものとして提示すれば足りるとすることによって、個々の構成員に対する無用の攻撃等を回避するという意味もあると思う。

 このような難問が次々に派生して来るのは、元々、死刑という刑罰自体が、殺人を罰するための殺人という究極の矛盾をはらんでいるからなのだろう。全員一致制の提案の背景にも、そういった問題提起があるのではないか。
(チェックメイト)