日本裁判官ネットワークブログ
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 今週のニュースの第1は,日本新聞協会が,「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」を発表したことでしょう。同指針では,犯罪報道の重要性を指摘しながら,被疑者を犯人と決め付けるような報道は、将来の裁判員である国民に過度の予断を与える恐れがあるとの指摘もあるとして,確認事項として,「捜査段階の供述の報道にあたっては、供述とは、多くの場合、その一部が捜査当局や弁護士等を通じて間接的に伝えられるものであり、情報提供者の立場によって力点の置き方やニュアンスが異なること、時を追って変遷する例があることなどを念頭に、内容のすべてがそのまま真実であるとの印象を読者・視聴者に与えることのないよう記事の書き方等に十分配慮する。」「事件に関する識者のコメントや分析は、被疑者が犯人であるとの印象を読者・視聴者に植え付けることのないよう十分留意する。」(毎日)などを確認事項として掲げています。多くの法律家からすると,無罪推定の大原則があるにもかかわらず,逮捕段階から,被疑者・被告人が犯人視されかねない記事には,長い間違和感を抱き続けてきたのが正直なところだと思われますが,裁判員制度発足に併せて,新聞紙協会が上記のような指針を発表したことには,敬意を表すべきでしょう。従前も,上記方針でやってきたが,それを確認しただけだとと反論されるかもしれませんが,協会として改めて確認し発表したのですから,今後,実際の記事で,上記指針の精神・確認事項がどのように生かされていくか注目されます。また,新聞とは異なる報道媒体の指針というものは出ないのでしょうか。なお,犯罪報道関連としては,「BPO放送倫理検証委が調査 光市母子殺害事件の裁判報道」(共同)とのニュースもありました。BPOとは,NHKと民放でつくる放送倫理・番組向上機構のことです。世間の関心の高い山口県光市の母子殺害事件の裁判をめぐるテレビ報道について、弁護士らが,「弁護団を一方的に中傷する不公正な報道があり、事実関係の間違いや歪曲、過剰な演出も多く、放送倫理に反する」と審理を要請していた(共同)に対応するものです。報道側の自主的な動きが注目されます。
 第2は,ショッキングなニュース。「昨年の死刑判決、最多の46人」とのニュースです。内容は,「昨年、全国の地裁、高裁と最高裁で死刑判決を言い渡された被告は、計46人に上り、1980年以降最も多かった」「06年の計44人がこれまで最多で2年連続の更新。昨年末現在の確定死刑囚は少なくとも106人、死刑執行は9人で、いずれも80年以降最多」(共同)というものです。評価は様々に分かれるでしょう。治安の悪化の問題も関連しているのかもしれませんが,注目されるのは,被害者の訴訟参加や,裁判員裁判が実施されると,上記のような傾向がどうなるかでしょうね。
 その他には,薬害肝炎訴訟で,原告団と政府が基本合意書を締結したとのニュースがありました。先週の薬害肝炎被害者救済法案が可決成立したことに続く動きです。また,昨年の漢字は,「偽」だったようですが(清水寺・森清範貫主),今年も,企業のコンプライアンスに係わるニュースが続いています。古紙配合率に関し,製紙業界各社が実態と異なる表示をしているのではないかとのニュースです。過去のコンプライアンスについても,クラッチ死亡事故で,三菱自動車元社長らに有罪判決(横浜地裁),拓銀元頭取らの36億5000万円の賠償義務確定(最高裁)のほか,船場吉兆が民事再生法の適用を申し立てた(大阪地裁)などが報道されています。
 ニュースを追っていると,日本社会が,各方面で「法化社会」「法適合社会」に移行しているのを感じますね。ギスギスした面もあるのですが・・・。(瑞祥)


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