AI・IoT時代の品質経営
2009年米国西海岸でのトヨタ車での事故(4人が死亡)をきっかけに「トヨタ自動車の電子制御システムには急加速する欠陥がある」という訴えが頻発したことがあった。家電製品や自動車には多くのコンピュータが組み込まれており、ソフトウェアの品質不良はハードウェアの場合よりより深刻なことが多いという。
製造物責任に関する裁判では、被告のメーカーは過失がなかったことを立証することが要求されるが、大規模なソフトウェアになるとステップ数(意味のある処理を行っているソースコード)が数百万にも及ぶものがあるそうで、その検証は大変な作業になるらしい。
トヨタはNASA(アメリカ航空宇宙局)の協力を得て、自社の車のソフトウェアに欠陥が見当たらないことを確認し、運転者のアクセルとブレーキの踏み間違いとの推論が勝った形でトヨタ叩きは納まった。しかし、ソフトウェアに欠陥が見当たらないから欠陥がないと技術的に積極的には言えないそうだ。
品質経営は、企業価値の源泉を“品質”と捉える経営であるが、コンピュータソフトの品質保証については未だ確立されているとは言えないのではなかろうか。それでも時代は進み、第4次産業革命の到来を告げている。
企業において人を育てることが品質経営の始まりであるが、皮肉なことに、IT時代のわが国小規模ベンチャー企業は、品質経営とは真逆の労働環境で、多くの従事者が長時間労働を強いられている現実がある。
米国で工科大学のトップクラスのエリート校出身のIT技術者が職場を追われる様が話題になった時期があった。人件費削減で、米国大手企業がインドなどにIT開発の拠点を移したのだ。そのつけで、中国からのサイバー攻撃に悩まされる時代となってしまった。生産拠点と開発拠点、本社機能は密接な連携が必要で、いかにインターネットの時代であっても機密保持の観点からも他国での開発は疑問である。
今またAIの進歩で大手銀行のキャリア社員が職場を追われる懸念があるようだ。公認会計士や弁護士の仕事も部分的にAIで可能となってゆく。
日本でもようやく英会話だけでなくコンピュータのプログラミング教育を小学生からやらせるところも出て来ているようだ。聞いた話、オランダなどは相当昔からプログラミング教育を学校で行ってきたお陰で、農家の人が自分で作業を自動化する装置を作ったりできるそうだ。
人作りは、国家的、社会的事業であり、企業の社会的責任の柱でもある。わが国の明治維新後の富国強兵が成ったのも、江戸時代の藩校や寺小屋での武士から農民までの学びがあり、「読み・書き・そろばん」で基礎固めができていたことによるところが大きい。
新しい時代の品質経営もその基本は変わらないのだ。TQMの17の原則*註3)を学ぶことから始めよう。
*註3)本稿その5「教育・訓練の重視」参照
本稿は、久米均著「日本の製造業」~これからの経営と品質管理~(株)日科技連出版社2012年刊を参考にしています。
2009年米国西海岸でのトヨタ車での事故(4人が死亡)をきっかけに「トヨタ自動車の電子制御システムには急加速する欠陥がある」という訴えが頻発したことがあった。家電製品や自動車には多くのコンピュータが組み込まれており、ソフトウェアの品質不良はハードウェアの場合よりより深刻なことが多いという。
製造物責任に関する裁判では、被告のメーカーは過失がなかったことを立証することが要求されるが、大規模なソフトウェアになるとステップ数(意味のある処理を行っているソースコード)が数百万にも及ぶものがあるそうで、その検証は大変な作業になるらしい。
トヨタはNASA(アメリカ航空宇宙局)の協力を得て、自社の車のソフトウェアに欠陥が見当たらないことを確認し、運転者のアクセルとブレーキの踏み間違いとの推論が勝った形でトヨタ叩きは納まった。しかし、ソフトウェアに欠陥が見当たらないから欠陥がないと技術的に積極的には言えないそうだ。
品質経営は、企業価値の源泉を“品質”と捉える経営であるが、コンピュータソフトの品質保証については未だ確立されているとは言えないのではなかろうか。それでも時代は進み、第4次産業革命の到来を告げている。
企業において人を育てることが品質経営の始まりであるが、皮肉なことに、IT時代のわが国小規模ベンチャー企業は、品質経営とは真逆の労働環境で、多くの従事者が長時間労働を強いられている現実がある。
米国で工科大学のトップクラスのエリート校出身のIT技術者が職場を追われる様が話題になった時期があった。人件費削減で、米国大手企業がインドなどにIT開発の拠点を移したのだ。そのつけで、中国からのサイバー攻撃に悩まされる時代となってしまった。生産拠点と開発拠点、本社機能は密接な連携が必要で、いかにインターネットの時代であっても機密保持の観点からも他国での開発は疑問である。
今またAIの進歩で大手銀行のキャリア社員が職場を追われる懸念があるようだ。公認会計士や弁護士の仕事も部分的にAIで可能となってゆく。
日本でもようやく英会話だけでなくコンピュータのプログラミング教育を小学生からやらせるところも出て来ているようだ。聞いた話、オランダなどは相当昔からプログラミング教育を学校で行ってきたお陰で、農家の人が自分で作業を自動化する装置を作ったりできるそうだ。
人作りは、国家的、社会的事業であり、企業の社会的責任の柱でもある。わが国の明治維新後の富国強兵が成ったのも、江戸時代の藩校や寺小屋での武士から農民までの学びがあり、「読み・書き・そろばん」で基礎固めができていたことによるところが大きい。
新しい時代の品質経営もその基本は変わらないのだ。TQMの17の原則*註3)を学ぶことから始めよう。
*註3)本稿その5「教育・訓練の重視」参照
本稿は、久米均著「日本の製造業」~これからの経営と品質管理~(株)日科技連出版社2012年刊を参考にしています。