中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

実戦柔道第12回

2014年11月04日 | ブログ
必殺の投げ技

 投げ技の基本は、大腰と大外刈りだと聞いたことがある。大腰は、背負い投げなどと同様相手に一旦背を向ける姿勢から相手を一回転させて投げ落す技であるが、腰を深く入れて投げるところから初心者向きなのである。大外刈りは大内刈り(相撲で言う内掛け)と同様、相手を向こう側に刈り倒す技である。相手の下肢を外側から大きく刈るので大外刈りという。これも崩し、掛けの動作が比較的分かり易いため初心者にも受け入れやすい技である。

 普通の柔道の試合では、相手も柔道着を着用しているからどのような技でも掛けられるが、リング上で行われる異種格闘技戦などでは、双方裸か相手は裸である場合がほとんどで、柔道技は大幅な制約を受ける。すなわち投げ技に特長を持ち、それが大きな戦力である柔道は異種格闘技戦ではその点でも大きなハンディを負っていることになる。

 襟背負いは無理で背負うなら一本背負いに頼るしかないし、釣り込み腰や体落としなどの技も難しくなる。技を施すには、相手の襟を掴む代わりに首を巻くか、相手の脇下に手を入れて掬う形で技を掛けるなどの工夫が必要である。しかし、そのためには相手の懐に食い込む必要があり、打撃の攻撃を掻い潜る必要がある。裸族でもあるまいに、異種格闘技戦を裸で戦うこと自体ナンセンスではある。

 裸で戦う場合の投げ技としても威力を発揮する技に冒頭に述べた基本技である「大外刈り」がある。釣り手に換えて手の親指と他の四指の間を大きく開き、相手の喉元に当て押し上げる。引き手に換えて、相手の腕を絡み込む。右技なら相手の右腕を左手で絡み込むわけである。そして大きく相手を後方に刈り倒す。さらに大外落しとなれば受け身をとっても相手のダメージは大きい。

 柔道の試合であれば、投げ技が決まって「1本」が宣告されれば、「それまで」となり勝負は決まる。しかし、実戦においては、投げ技による相手へのダメージが少なければ、反撃されるは必至であるから、続けて当て身か、関節技または締め技によって相手の死命を制する必要がある。

 投げによって前方に転がった相手の脇が空いておれば、そこに足底で当て身を入れる。肩関節が外れれば、相手はほとんど戦闘能力を失う。それが手緩いと思えば首筋に当てる。従って、逆に投げられた場合は、次なる攻撃に備えて素早く丸くなって転がり、相手から遠ざかる必要があるのだ。

 「大外刈り」は初心者にも比較的簡単に覚えられ、相手が全くの素人であれば即実戦に使える技である。ただ、安易に大外刈りにゆけば、相手の突き技をまともに食らう恐れがあり、まずは相手の利き腕を絡めて制する必要がある。また大外刈りは返し技を食らいやすい技でもある。すなわち「大外返し」がある。またすかされて刈った足が空を切らされると、自分の勢いで回転し、投げられた格好になる。

 「大外刈り」は、木村政彦師範の得意技で全盛時代はその威力に、稽古相手からは禁止技扱いにされたほどだったという。師範の柔道本*23)には、「奥襟を取った大外刈り」、「横襟を取った大外刈り」、「相手が左変形で奥襟を取った大外刈り」、「左変形に対する大外刈り」と機に応じた大外刈りを解説している。まさに師範の求める「創意工夫の柔道」の一端である。

 柔道の特に投げ技の難しいところは、人間は個々に体格や動作の癖の異なりが大きく、相手の実力に関わらず、同じように技を掛けたのでは、利く場合とそうでない場合があること。数多くの選手と練習して、工夫しながら対応できる幅を広げてゆくしかない。

 実戦柔道の鍛錬では、相手を見て、この相手にはどの技が最も効果的かを洞察する力を養うことも肝要なのである。




*23)木村政彦「わが柔道」1985年(昭和50年)1月初版。株式会社ベースボールマガジン社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする