MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

双子なのにどうして?

2015-10-08 20:57:58 | 日記

ちょっと遅くなりましたが、9月のメディカル・ミステリーです。

 

9月28日付 Washington Post 電子版

 

What caused a newborn twin’s badly swollen legs

双子の新生児のひどい足の腫れの原因は何?

By Sandra G. Boodman,

 Heather Ferguson(ヘザー・ファーガソン)さんは取り乱していた。

 2ヶ月になる双子の男の子のこの34才の母親は、自分の子供の一人が心不全や生命にかかわる別の病気の診断的検査を受けるため、付き添って Charlotte の病院で数日間を過ごしていた。しかし何も見つからなかったため医師らはインターネット検索を行った。その結果、可能性のある診断名が得られ、Ferguson さんは小児外科を受診するよう勧められた。

 しかし2006年12月に Dylan Ferguson(ディラン)ちゃんを診察したその外科医は、その子の両足や足の付け根のひどい腫れに対して通りいっぺんの検査を行った以外にはほとんど何も示してくれなかった。「とりあえず見守っていきましょう、6ヶ月以内に連れて来て下さい」その外科医がそう話したことを Ferguson さんは思い出す。

 「それは最悪の時でした」そう彼女は思い起こす。「異常があるのがわかっているのに冷たくはねつけられたことは非常に不安だったし、自分たちに委ねられ、まさに医療から見切りをつけたかのように感じていました」Ferguson さんが Dylan ちゃんの双子の兄弟である Devdan(デヴダン)ちゃんの正常の足を見るにつけ、その違いに気持ちが乱れた。

 このような最初の医療との衝突が Ferguson さんの人生を思わぬ方向へと向け、Charlotte Ballet (ノースカロライナ州にあるバレエ・アカデミー)でのダンサーとしてのキャリアとは全く異なる職業に彼女を進ませることになる。しかし、バレリーナに必要とされた厳しい訓練や、ひたむきな決意が、その後待ち受けることに対する“重要な鍛錬”となっていたと彼女はいう。

 この双子は Ferguson さんが“全く正常で健康だった”と表現する妊娠を経て2006年9月29日に生まれた。

 Devdan ちゃんより2分後に生まれた Dylan ちゃんは、わずかに足の付け根が腫れた状態で生まれた。割礼を受けるとその腫れは消失した。

 しかし、1週目の健診までにその腫れは再発していた。小児科医は割礼の一時的な副作用のせいであるとし、Ferguson さんと夫の Brian さんを安心させようとした。感染の徴候はなく Dylan ちゃんは痛そうにもなかった。

 1週間かそこらして、その腫れは彼の大腿上部と性器にまで広がり、Ferguson さんは Dylan ちゃんの右の大腿に腫瘤を感じた。「この時点で、それは割礼とは何ら関係がないと考えました」そう彼女は思い起こす。小児科医は虫刺されかもしれないと彼女に告げた。しかし彼女は疑いを抱いていた。10月だったし、赤ちゃんたちは車までの行き来を除いて外には出ていなかったからである。その腫れが治まらないため小児科医は睾丸を取り巻く袋に液体が貯留し陰嚢の腫脹を引き起こす hydrocele(睾丸瘤)を疑った。

 生後4週の時に Dylan ちゃんを診察した小児外科医は両側の睾丸瘤を確認した。「小さい男の子ではよく見られるものです」と彼は Ferguson 夫妻に説明した。しばしば見られるように病変が自然に消退するかどうかを追跡するため Dylan ちゃんの初めての誕生日まで様子を見るよう彼は勧めた。もし消退しなければ Dylan ちゃんには手術が必要になるだろう。

 Ferguson さんは安堵した、がそれもつかの間だった。それからの数週間、腫れは悪化し Dylan ちゃんの右下腿まで下がってきたため小児科医のもとを数回訪れた。「対照群として彼の兄がいたのです」と彼女は思い起こす。やがて Dylan ちゃんの両足は、兄のそれの倍の大きさになり、彼の小さな足は肉の塊となっていた。「誰もが心配するものではないと私に言い続けました」

 

Abrupt about-face 突然の転換

 

 しかし、双子の2ヶ月の健診のとき、その医師は Dylan ちゃんの足を一目見て素早く部屋を出た。彼の足は、皮膚を圧迫したあと凹みが残存する腫脹、すなわち圧痕性浮腫(pitting edema)の徴候を示していた。

 Ferguson さんは、ホールでその小児科医が同僚たちと協議するつぶやくような会話を耳にした。「心配というよりむしろ腹が立ちました」と彼女は思い起こす。「子供たちは疲れていてお腹が空いていたのです。そして私はこの腫れが長い間あったものだとずっと指摘してきていたのです」

 その医師は部屋に再び入ってきて Ferguson さんに Dylan ちゃんを病院に連れて行く必要があると告げた。この子らに授乳するためにまずは家に連れて帰りたいと彼女が言うと、その医師は詳しく話すこともなく、彼女は病院に直行すべきだと主張した。

 そこに至り Ferguson 夫妻は次第に苛立ちを募らせた。「私たちはこう問い続けました。『なんで私たちはここにいるの?』と」そう彼女は思い起こす。医師が疑っていた病気を看護師から聞かされ彼女はショックを受けた。その圧痕性浮腫は Dylan ちゃんの心臓が機能しなくなっていることを示唆していたからである。

 それからの3日間、Dylan ちゃんは次々と検査を受け―MRI検査、レントゲン検査、超音波検査などだったが、そのいくつかは全身麻酔下に行われた―、医師らは心疾患や腎疾患だけでなく、考え得るあらゆるものを除外した。すべての検査が正常だった。

 この赤ちゃんを家に戻す間際、一人の医師がインターネットで検索したところリンパ浮腫(lymphedema)という疾患がひっかかり、これで Dylan ちゃんの症状を説明できるかもしれないとこの夫婦に告げた。

 「それだけです。それが何なのか、どのようにして確定診断がつけられるのか、どのように治療できるのか、それとも治療ができるのかできないのか、全く説明はありませんでした」何をしたら良いのかを彼女が尋ねると、医師らはあの小児外科医のところにもう一度行くよう彼女に伝えた。

 彼女によると、外科医は Ferguson さんに“見守りを続けながら”6ヶ月以内に連れてくるよう助言したという。彼は“厄介げで冷淡な”感じでリンパ浮腫については一切触れなかった。リンパ浮腫は免疫系の一部であるリンパ系に液が貯留することによって起こる。閉塞によって液が正常に流れなくなって腫脹が生じ、治療が行われない場合、感染や運動障害を生ずる。Ferguson さんによると、彼女は疲れ果て動揺していたので診察の間“肝心の質問”ができなかったという。

 この静観するというアプローチに疑いを持った Ferguson さんはウェブに目を向けたところ、Charlotte でリンパ浮腫治療を専門にしている医師がすぐに見つかった。

 リハビリテーション医学の専門医である physiatrist(リハビリテーション医)の Sharon Kanelos 氏に電話をかけると一番早い予約は数ヶ月先だと言われた。Ferguson さんはスタッフに懇願し 2週間後の元日に Dylan ちゃんを診察することで Kanelos 氏の同意を取り付けた。

 

‘Not rocket science’ “とりわけ難しいことではない”

 

 Kanelos 氏によると、彼女は最初、Dylan ちゃんの血管系の奇形や血栓症など浮腫を来たす他の原因を考えたという。しかしもっとも可能性の高い診断名は primary congenital lymphedema(原発性先天性リンパ浮腫)だと彼女は考えた。「かなり典型的な症状でした」と Kanelos 氏は言う。その後の検査でこの診断が確定した。

 原発性リンパ浮腫は米国で見られるリンパ浮腫の約10%を占める。リンパ浮腫の多くは、癌治療、特に乳房切除術の際、リンパ節やリンパ系が損傷されて起こる。世界的には大多数のリンパ浮腫は寄生虫感染によって引き起こされる。原因に関わらず、もし本疾患が未治療の場合、四肢が著しく腫れ変形する象皮病(elephantiasis)を招くことがある。患部の皮膚は岩のように固く、ほとんど材木のようになり、あるいはひび割れて液体が染み出すこともある。リンパ浮腫では極端な肥満の患者も多く、蜂巣炎などの重篤な細菌性の皮膚感染症を発症することもあり致死的ともなり得る。

 本疾患の Dylan ちゃんのタイプは一般に幼少期に出現するもので、いくつかの遺伝子の欠損、あるいはランダムな変異によって引き起こされる。検査では彼のケースの原因となっている遺伝子を特定できなかったが、家族は University of Pittsburgh での長期間の遺伝子研究に登録されている。Kanelos 氏によると、双子のもう一人にもリンパ浮腫を発症する可能性があるというが、これまでのところ Devdan ちゃんには本疾患の徴候は見られていない。

 何年間もこの外観の醜い疾患を抱えて生きていながら「一度も診断されていない非常に多くの成人患者をみています」と Kanelos 氏は付け加えた。

 「リンパ浮腫に対する治療はないと私に言う医師がいます」が、それは正しくない。根本的治療はないが、有効な治療法は存在すると彼女は指摘する。それには、うっ滞した液を分散させる専門的マッサージや腫れを軽減させるしっかりとした圧迫帯などがある。

 「とりわけ難しいことではありません」リンパ浮腫を治療する米国の約50人の医師の一人である Kanelos 氏は言う。医師は研修中にリンパ系についてほとんど学んでいないため、多くはリンパ浮腫を認知できないという。

 Dylan ちゃんの診断によって Ferguson さんは“安堵と疑念の混ざった気持ち”を持った:どうして自分の4ヶ月の双子の一人だけが根治できない稀な病気になったのだろうか?と。彼女は Boston Children's Hospital にセカンドオピニオンを求めた。そこではチームによって Dylan ちゃんのカルテが再検討され診断が確定した。さらに同病院は、新たに診断された家族と年長の患者とをマッチさせるプログラムを提供している。Ferguson 夫妻には、現在議会の職員となっている当時20才代の法科の学生が割り当てられた。「Dylan と同じ病気だったのに充実した幸せな人生を送っている人と話しをすること」は「人生を変えるものであり」、強く元気づけられるものでした、と Ferguson さんは言う。

 Kanelos 氏はさらにこの家族をリンパ浮腫のセラピストに紹介し、Ferguson 夫妻は毎日行う徒手的リンパドレナージの指導を受けた。これは腫れを減じるために Dylon ちゃんの下肢と足の付け根から体液を移動させる治療的マッサージの一法である。その治療法では引き続いて赤ちゃんの下半身が圧迫帯で巻かれることになるが、それを行うと彼はMichelin man(MrK 注:ミシュラン・マン;フランスのタイヤメーカー・ミシュラン社のマスコットキャラクター)のようになった。

Michelin man

 毎日のマッサージとゴソゴソと動く赤ちゃんを包帯で巻くことは1時間の面倒な作業となったが、そのうちいくらか楽になっていったと Ferguson さんは言う。

 

A new career 新しい仕事

 

 Dylan ちゃんが7ヶ月になると、彼の包帯は特注の圧迫帯に代わった。この家族の保険会社は最初の一式を補填してくれたが、以後この圧迫帯は4ヶ月から6ヶ月毎に取り替える必要がありそのたびに約450ドル(約54,000円)かかった。しかし 2008年、それらはこのプランでは補償されないとして新たな保険会社は支払いを拒否した。

 Ferguson さんはこの支払い拒否に抗議したが、この経験からリンパ浮腫の患者の支援者としての彼女の新たな仕事が始まった。「私は Dylan を治すことはできませんでしたが、私の息子や、彼と同じ闘病に直面する他のリンパ浮腫の患者のため、特に1,000ドル(約12万円)かかる圧迫帯を支払う余裕のない人たちのために補填範囲のギャップを縮めようと精一杯尽力することはできたのです」と彼女は言う。

 Ferguson さんは州議会議員に支援を求め、保険会社の医療ディレクターに今回の支払い拒否を再検討するよう要請した。最初の拒否から9ヶ月後、同社はこの圧迫帯の補填に同意したがわずか一年分だけだった。州の何人かの議員の支援を受け、Ferguson さんは補填を命じるノースカロライナ州法の条項を求めてロビー活動を行った。

 2008年の大統領選挙の2ヶ月前、Ferguson さんは自身の闘いについて話すよう医療に焦点を当てた選挙集会に招かれた。この集会はその後副大統領になった Joe Biden 氏とその妻 Jill が主役だった。2009年、民間保険会社に圧迫帯を含めたリンパ浮腫治療を補填することを求める命令が州議会を通過し法律として成立した。

 2010年、133の共同スポンサーを持ち、診断と保険担保の向上を支援する Lymphedema Treatment Act がアメリカ連邦議会に紹介された。Ferguson さんは現在、この議案に賛成してもらえるようロビー活動を行うため彼女が創設したボランティア組織 Lymphedema Advocacy Group を主宰している。

 蜂巣炎で2回入院したことはあるが Dylan ちゃんは現在元気である。彼は今、膝までの圧迫ソックスを着用している。この病気によって双子の子供達の間の絆が壊れてしまうのではないかという彼女の不安は杞憂だったと Ferguson さんは言う。「私たちは彼らに真っ直ぐに向き合ってきました」と彼女は言う。「Dylan は決して『どうして自分だけがこの病気で Devdan は違うの?』と尋ねたことはありませんでした。もちろん Devdan もです」

8才になった Dendan(左)と Dylan(右): Dylan は圧迫ソックスをはいている。根治療法はなく治療は腫れを抑えるための圧迫帯となる。もし適正に治療されなければ本疾患によって永続的な障害や手足の巨大な腫脹がもたらされる。

 

リンパ浮腫についてはメルクマニュアルをご参考いただきたい。

リンパ系は体内の老廃物や毒素、細菌などを運ぶ

排水路の役割を果たしている。

リンパ浮腫とはこのリンパ系の流れに障害があるために

皮下組織にリンパ液やたんぱく質などが異常に蓄積した状態をいう。

リンパ浮腫にはリンパ系形成不全で発症する原発性と、

手術など何らかの原因によって生じたリンパ管の閉塞や損傷による

二次性がある。

後者の一つである熱帯地方に見られる象皮病は

寄生虫のフィラリアがリンパ系に感染して起こるもので

このたびノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智氏が開発した

イベルメクチンはこの寄生虫感染症に対する特効薬である。

二次性は一般的には手術(典型的には乳癌で行われるリンパ節摘出術後)、

放射線治療、外傷、腫瘍などによるリンパ系の閉塞が多い。

原発性リンパ浮腫は遺伝子異常によるリンパ系の形成不全や低形成が

原因と考えられている。

先天性、早発性、晩発性などがあり、出生時から見られるものや

高齢になって発症するものなど様々である。

先天性リンパ浮腫は2才になる前に現れる。

家族性に起こる常染色体優性遺伝のミルロイ(Mirloy)病は

VEGF3 の変異に起因する。

症状は四肢軟部組織の浮腫で、四肢のいずれかの部分であったり、

肢全体に腫脹が生じたりする。

腫脹が関節周囲に起こると関節の可動域が制限される。

細菌が皮膚のひび割れや切創から侵入するとリンパ管炎が引き起こされる。

連鎖球菌によることが多く丹毒や蜂巣炎を生ずる。

診断は通常身体所見から行われる。

二次性の場合は原因を特定するための検査が必要となる。

リンパ浮腫は一旦発症すると治癒はまれである。

根治療法はないが、浮腫液を移動させる手技により症状を緩和させる。

手足を拳上し心臓に向かって搾る徒手的リンパドレナージや

圧力勾配のある包帯、間欠的空気圧迫などのマッサージが行われる。

決定的な治療法はないものの放置すると徐々に悪化するため、

できるだけ早期に診断し増悪を予防する種々の措置を講じることが重要である。

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