或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

ベルト・モリゾ

2010-01-13 06:19:18 | 830 パリ紀行
マルモッタン美術館を再訪した時の新たな発見が、女流画家であるベルト・モりゾ(Berthe Morisot)。アンピール様式の雰囲気溢れる屋敷の中を観てまわる中で強い印象を受けたのが、上階の部屋全体に展示されていた彼女と彼女に関わる作品。

彼女自身の作品は典型的な印象派の画風で、そのマチエールと色彩感覚はルノアールに最も近い。作品の中で彼女らしさを強く感じて気に入ったのは、前の記事で紹介した「舞踏会にて(Au Bal)」(1875年)以外では晩年に描いた「ブージヴァルの庭(Le jardin a Bougival)」(1884年)。柔らかい中にも艶やかな色彩が、親しみの中にも高貴で華麗な雰囲気を醸し出していた。

彼女の作品は過去にポツポツと。でも印象は薄かった。改めて見直したというところ。作品に感動して少し興奮しながらフロアを歩いていて、最後に眼に入ったのが小ぶりな彼女の肖像画。エドゥアール・マネが描いた上の画像の「横たわるベルト・モリゾ」(1873年)。被写体がとても魅力的。ピーンときたかな、漂ってくる隠しきれない男と女の危険な匂いが。オルセー美術館にある有名な「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」(1872年)とはまるで違う雰囲気。なんだろう、このオーラは。

帰国して読んだのが彼女にまつわる2冊の評伝。ドミニク・ボナの「黒衣の女ベルト・モリゾ」と坂上桂子の「ベルト・モリゾ ある女性画家の生きた近代」。結論としてマネと彼女の関係については藪の中。だけど前者の巻頭に載っている”われわれは皆それぞれの秘密をいだいて死ぬ(Nous mourons tous avec notre secret)” という彼女の言葉が実に意味深だなと。

それを暗示しているかのような彼女の作品が死ぬ2年前に自分の娘を描いた「ヴァイオリンを弾くジュリー(Julie au violon)」(1893年)。なんと左上後方に小さく見えるのは、その肖像画そのもの。当時マネには妻がいたわけで、もし関係があったとするなら完全な不倫。彼女のような上流階級の女性にとっては、かなわぬ恋。毎日どんな気持ちでこの絵を眺めていたのだろう。

Le jardin a Bougival 1884 Julie au violon 1893


黒衣の女ベルト・モリゾ黒衣の女ベルト・モリゾ ベルト・モリゾ―ある女性画家の生きた近代ベルト・モリゾ―ある女性画家の生きた近代