或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

滅びのモノクローム

2009-03-23 06:13:57 | 010 書籍
江戸川乱歩賞の受賞作品シリーズの続きだけど、2002年に第48回を受賞した三浦明博の「滅びのモノクローム」(2002年)を読了。広告代理店に勤める主人公の日下が、骨董市で古びたフライフィッシング用のリールを手に入れたことから物語りは始まる。売り主である女性からついでに貰ったのが、リールと一緒に保管してあった古い16ミリフィルム。その映像をCMに使おうとして、戦時中に封印されたやましい過去を暴くことにつながるというストーリー。最初が釣りの道具ということで掴みはOK。

読みやすかったけど無理な展開も多々あって推理小説としての出来はイマイチかも。でも自分的には満足だった。というのも昨年旅行に行った長崎が出てくるし、それに絡んだ歴史ネタをいろいろと勉強できたから。ハイライトは直接には関係がないグラバー。そう、あのグラバー邸のオーナーであるスコットランド出身のトーマス・ブレーク・グラバー(Thomas Blake Glover)。

彼については長崎の貿易商という知識しか持っていなかったけど、二つの大きな功績があることが分かって。ひとつは明治維新に関わっていたこと。長州や薩摩の藩士の英国留学を援助したり、坂本龍馬が仲介役をした薩長同盟の成立に尽力したり。これはかなりの立ち回り。両方の藩に物資の提供をすることで同盟成立の一因になったとか。まさに裏舞台の立役者。

もうひとつは日本のビール産業を発展させたこと。日本の財界人等、ビール会社の設立に賛同する資本家たちを集め、その跡地や建物の購入を勧めて、1885(明治18)年に「ジャパン・ブルワリー」を設立。本場ドイツの味にこだわったことで日本にビール文化が根付くきっかけになった。そして1888年に発売されたのが「キリンラガービール」。今復刻版が出回っているけど。

受けたのがこのビールのラベル。デザインの原型となっている麒麟の採用もグラバーの提案なんだとか。なんかねえ、倒幕とビール。このギャップが素晴らしい。でも結局のところ、この小説はグラバーのお勉強の掴みに終始した感が否めないけど。

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