
このブログをお読みのかたにはおなじみでしょうけど、ウリュウさんは札幌在住のフォトグラファー。モノクロフィルムにこだわり、この数年はとても精力的に制作、発表(個展、グループ展)をしています。
今回は、ウリュウさんの個展歴でも、最大規模のもの。一部、ことし5-6月にgallery new starでひらいた個展で発表した作品もありますが、ほとんどは未発表の新作です。
冒頭の画像は、ウリュウさんが
「この会場でのベストポジション」
と呼ぶ位置から撮ったものです。
右端は札幌の豊平側河川敷、その左隣は、おなじく豊平側にかかる南7条大橋のたもとのようです。
でも、それぞれのコマがどこで撮影されたかということは、それほど重要ではないかもしれません。
筆者は、出品された写真の列を見て、かつて自分がしてきた旅の思い出が強烈によみがえってきたのでした。
豪雪の磐越西線、夜の東北本線、福井市の郊外、ひたすら畑の中を進む士幌線。
じぶんはそれほど旅行好きというほどでもないはずですが…。
いや、日々ギャラリーをめぐってあちこち出歩いているのも、また、以前札幌市内の中小河川に沿って散歩していたのも、一種の旅なのかもしれませんが。
そこに写っているのは、たしかに、ウリュウさんの視野がとらえたものであるはずなのに、観ている筆者の、旅の記憶を、静かにそして激しく揺さぶるのです。
(以下、21日朝追記)
店舗用の冷蔵庫や自転車が放置された倉庫の裏のような場所。
古い無人の公園。
とまっている英国製自動車(ミニ)。
河川敷のバックネット。
夕暮れの国道。
シャッターをおろした、コカコーラの看板を掲げた古い酒屋。
夜の電車の車窓。
どれをとっても、なんのへんてつもないショットなのに…。

ホワイトバランスの設定で、ちょっと色味がちがっていますが、ご容赦を。
ちなみにウリュウさんは、フジのPRESTO400を使い、3号の印画紙で焼いています。
20世紀の筆者とおなじです。なつかしいな。

夏の終わりに、日本海回りで列車に乗って東京方面へ行ったそうで、その際のショットがけっこう多くまじっています。
夜行の急行はまなすの客車内をとらえた1枚があるのは、さすがウリュウさん(笑)。
とくに、最後のほうに、渋谷や神宮前、吉祥寺(ウリュウさんが青春時代を過ごしたマチ)などのコマが多いのは、ごらんになった方はおそらく気付いたことでしょう。
金網越しの野球グラウンドは中野だそうです。
銚子電鉄の車内を撮ったものもあります。
また、特急すずらんの車輛が変わる最後の日、室蘭へ行って撮った写真もあります。
団地の中から観覧車が見える1枚がそのひとつです。
遠くに見える古く小さな観覧車って、なぜ心を揺さぶるのでしょう。
展示方法は、額装していないパネルを、間隔を詰めて横一列にずらっとならべているのがメーンになっており、随所に額装したものや、すこし大きめに焼いてクリップで留めたものが随所に挿入されてアクセントになっています。
この横一列というのが、きっと列車の車窓を思わせるのでしょう。
それと同時に、映画(ロードムービー)をも。
映画の起源は、人が思うように「演劇」「舞台」ではなく、列車の車窓である、と言ったのは、ロラン・バルトでしたっけ(違ったら、すいません)。
ウリュウさんによれば、写真はだいたい時系列に沿ってならんでいるのだそうです。
いま「アクセント」と云いました。横一列だけだと、たぶん、感傷性みたいなものが前に出すぎてしまうと思います。
また、風景の連なりだけがつづいていれば、やはり似たような状態におちいったかもしれませんが、あちこちに、壁にうつった微妙な影とか、抽象画のようなコマが挟まっているので、作品世界ぜんたいが、とてもふくらみをもったものになっているのではないでしょうか。
もちろん、ウリュウさんが話すとおり
「この横一線の中には、使われなかったコマが膨大にある」
わけですが…。
「あらためて『つながり』ということを実感しました。この横一列は、コマとコマのつながりであり、景色と景色の、場所と場所の、そして人と人の、つながりなんです。それらを、ただ振り返るんじゃなくて、これから進んでいくための何かにしたいんです」
案内状につかった写真は、ややアオリぎみに、電柱と電線を撮ったもの。
これも「つながっていくこと」の暗喩でしょう。
BGMにも作家の意思が貫かれています。
曲と曲の間に、旅先や札幌の地下鉄駅で録った音が挿入されています。

最後に特筆しておきたいのは、このギャラリー移設後はじめて、奥まった空間を有効に活用していること。
ここにプロジェクターを置いて、展示写真を壁に映写しているのです。
移設前との大きな違いのひとつは、外からガラス窓越しにギャラリー内があまり見えないことだと思いますが、ウリュウさんはこの手段によって、道行く人に、展示への関心をひきつけようとしています。
じっさい、この映写を見て、ふらっと入ってくる人もいるそうです。

あと1日。
紹介が遅れましたが、ぜひぜひ。
07年11月16日(金)-21日(水)10:00-18:30
富士フイルムフォトサロン(中央区北3西3、札幌北三条ビル)
□LIKE A ROAD MOVIE
□ウリュウさんのサイト“days clip” http://www.daysclip.com/index.html
□ウリュウさんのブログ「豊平橋停留所」 http://daysclip.livedoor.biz/
■Railway Story 衣斐隆・ウリュウユウキ写真2人展(07年7月)
■個展「思いは旅をする」 (07年5-6月)
■春展(07年4月)
■“SAPPORO”PHOTOS... (07年2月)
■kanecho party(06年12月)
■写真展19761012(06年10月)
■二番街de ddd ART(06年9月)
■小樽鉄路写真展(06年8-9月)
■his life,her life,this life -まちの記憶と記録展-(06年7月)
■04年3月の写真展
まさに、僕の伝えたい想いはそこにあります。
いろいろな場で、いろいろな立場で、いろいろな想いを持ちながら、僕たちはいまを旅している。
お互いいろいろあるけれど、その旅が、これからもよい旅でありますように。そして、写真が、中でもモノクロ・銀塩の写真がこれからもさまざまな旅の瞬間の重みを写し止めて行けるように……。
新たなる「つながり」をたくさん得て、次なる旅を一歩一歩、元気に進めていけそうです。
またヤナイさんに、みなさまに見ていただけることを楽しみに、作り続けていきたいと思います。
なんか、冗長なわりには中味に乏しいテキストで失礼しました。
「人生は旅である」
とことばにしてしまうと、陳腐極まりないですが、そういう思いが静かに、強く迫ってきました。
ウリュウさんの道のりでも、ひとつのエポックメーキングになったのではないかと思います。