
(承前)
2018年に札幌のギャラリー門馬で開かれた「塔を下から組む」展が、良い意味で、予想の「斜め上」を行った展覧会だったということはその際にも書きました。
世の中には、すぱっと論理で割り切れる話と、感情がつきまとって離れない話があります。政治や自然科学の話はわりあい前者になることが多いようです。そして、おなじ意見や考えの持ち主がときには徒党を組んだり束になったりする必要がある場合もあり、それを全面的に否定するつもりはありません。
ただ、やはりアートは後者の、どこまでいっても理屈で割り切れないもやもやっとしたものと寄り添っていくしかないのでしょう。「百年記念塔の取り壊しに反対というテーマの作品です」と言い切ってしまえるテーマであれば、べつにまわりくどくアートにする必要はなく、「取り壊しに反対」とだけ紙に書いて壁に貼っておけばいい。そうではなく、取り壊し議論をきっかけに、塔とは、建築とは、開拓とは…等々、さまざまなことを考察するきっかけになるわけで、しかも性急に答えを提示することがアートの役目ではないのです。
かといって「ダシにしている」「素材としている」というのともすこし違います。
すくなくても、昔ながらの風景画家がモティーフにしようとイーゼルを記念塔の近くに立てるのとは、アプローチがだいぶ異なるのです。
「記念塔について考えること」を、メンバー共通の歩き出す、とりあえずの場所とする…。
こんなイメージに近いのではないでしょうか。
だから
「このグループ展は、記念塔解体に賛成なのか、反対の立場なのか」
と問うこと自体、政治の問いであって、アートをめぐってのものの言い方とはいえないわけなのです。
世の中は、白黒はっきりつけられない案件にみちているのです。

以下、簡潔な紹介に努めます。
今回新たにメンバーに加わった佐藤祐治さんの「空白を耕す」。
道内の開拓記念の碑などを調べはじめたら「100や200ではきかない」ことがわかり、その「多くは神社の境内や公民館、小中学校の敷地内に配置されていた」ということです。
(ちょっとツッコミますけど、小学校はともかく、中学校の敷地内ってことは、戦後ですよね)
札幌を中心にそれらの写真を撮り、碑の部分をくりぬいてプリントしたものを、おびただしく並べているのが、今回の作品です。
くりぬいた跡は空白で表され、碑の部分のプリントは、下の方のケースに飾ってありました。

わたしたちの認知のあり方について、鋭いところをついている作品であると感じました。
こういう記念碑などは、あらためて見ると存在感が大きいのですが、たいていの場合は、目に入っているのにもかかわらず気づいていなかったり、ちゃんと認識していなかったりすることが多いのではないかと思うのです。
百年記念塔ですら、地元の札幌にいるのに、よく知らない人が意外と多いのですから。
(ついでにいえば、野外彫刻も、気づいていない人がびっくりするほどたくさんいます。アートや彫刻に興味がないと、最近の言葉で言えば「スルーして」しまうようです)
ただ、わたしたち北海道人が日々目にしている風景は、この150~100年ぐらいの間に先人が原始林や野を切り開いて人為的につくり出したものであり、記念碑はその風景の劇的な変容を記念したものでもあるはずなのです。
それが目に入っていない、あるいは、仮になくなったとしても気づかれないのだとしたら、わたしたちは日々いったい「何を見ている」ことになるのでしょう。
次は「塔を下から組む」展の言い出しっぺ、佐藤拓実さん。

「百年記念塔(幻視2)」と、ドローイングのシリーズ。
「百年記念塔と慰霊の問題について考えながら描いたシリーズ」とのこと。

「塔の群れ」。
パネルには、北海道の塔的な建築物を年表のように絵画にした―とあります。
こんなものがあるのか~(たとえば、空知管内の秩父別町や栗沢町(現岩見沢市栗沢町)に記念塔があるとは知らなかった)という素朴な驚きがあります。
また、トマムリゾートのタワーやJRタワー(札幌駅)、住友奔別炭鉱立坑などが入っているのもおもしろい。
バベルの塔は、ブリューゲルがローマのコロセウムを思い出しながら想像で描いたもので、北海道とは関係ありません。
これがかき込まれていることによって、輝かしい塔の存在が、一気にむなしい色調を帯びてくるようです。
ただし、砂澤ビッキの「四つの風」(札幌芸術の森野外美術館にある)だけは、なんかちょっと違うような気がするんだよな。
世界を制してやろうという人間の野望とは正反対のほうを志向している彫刻ではないでしょうか。
中村絵美「植物のモニュメンタリティ」。
「自然」と「人為」とを、ともすれば二項対立的にとらえがちなわたしたちの考え方に、鋭利な疑義を差し込んでくる作品。
キャプションには四つの地名が記されています。
根室半島・春国岱
焼尻島・鶯谷
津軽半島・上宇鉄
夏泊半島・椿山
鶯谷には、
「アカエゾマツ天然林。
天狗の祟りがあるので、決してここに生えている木は切ってはならないと伝わる。」
と附記されています。
だとすれば、その天然林は、100%の自然景観といっていいのだろうか…。
これも、佐藤祐治さんとおなじように、わたしたちの風景の認識のしかたについて、根底から考えることを求める作品であるように思われます。
やはり長くなってしまったので、続きは次項へ。
2020年10月3日(土)~11月29日(日)午前9時半~午後5時(入場30分前まで)、月曜休み
市立小樽文学館 (小樽市色内1 http://otarubungakusha.com/exhibition/2020033734 )
一般300円、高校生・市内高齢者150円、中学生以下無料
【告知】竣工50年 北海道百年記念塔展 井口健と「塔を下から組む」
□【井口健×佐藤拓実 往復書簡】 https://100kinentou-oufukushokan.com/
□「塔を下から組む」公式サイト https://build-the-tower-from-the-bottom.tumblr.com/
■塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展(2018)
■続き
■続々
【告知】塔を下から組むー北海道百年記念塔に関するドローイング展 (2018)
□佐藤祐治さんサイト http://metasato.com/
■中嶋幸治 芸術記録誌「分母」vol.2 特集メタ佐藤 −包み直される風景と呼び水− (2017)
■メタ佐藤写真展「光景」 (2014)
【告知】「写真 重力と虹」展 (2013)
【告知】写真展「三角展」 (2011)
■さっぽろフォトステージPart1 (2009)
■さっぽろフォトステージ (2008)
□佐藤拓実さんhttp://satotakumiart.wixsite.com/kotatusima
□こたつ島ブログ https://kotatusima.hatenablog.com/
■大友真志・佐藤拓実「天塩川」 (2019)
■第10回 茶廊法邑ギャラリー大賞展 (2014)
中村絵美さん http://eminakamura.blogspot.com/
■ 写真展「長万部写真道場+(プラス) ローカル・カラーの時代」 (2019)
【告知】長万部写真道場 再考ー北海道における写真記録のこれから(2018年2月)
■生息と制作-北海道に於けるアーティスト、表現・身体・生活から 2013Mar.東京(12)
■北海道教育大学卒業制作展
・JR小樽駅から約710メートル、徒歩9分
・中央バス、ジェイアール北海道バスの都市間高速バス「高速おたる号」「高速ニセコ号」「高速いわない号」の「市役所通」から約700メートル、徒歩9分
2018年に札幌のギャラリー門馬で開かれた「塔を下から組む」展が、良い意味で、予想の「斜め上」を行った展覧会だったということはその際にも書きました。
世の中には、すぱっと論理で割り切れる話と、感情がつきまとって離れない話があります。政治や自然科学の話はわりあい前者になることが多いようです。そして、おなじ意見や考えの持ち主がときには徒党を組んだり束になったりする必要がある場合もあり、それを全面的に否定するつもりはありません。
ただ、やはりアートは後者の、どこまでいっても理屈で割り切れないもやもやっとしたものと寄り添っていくしかないのでしょう。「百年記念塔の取り壊しに反対というテーマの作品です」と言い切ってしまえるテーマであれば、べつにまわりくどくアートにする必要はなく、「取り壊しに反対」とだけ紙に書いて壁に貼っておけばいい。そうではなく、取り壊し議論をきっかけに、塔とは、建築とは、開拓とは…等々、さまざまなことを考察するきっかけになるわけで、しかも性急に答えを提示することがアートの役目ではないのです。
かといって「ダシにしている」「素材としている」というのともすこし違います。
すくなくても、昔ながらの風景画家がモティーフにしようとイーゼルを記念塔の近くに立てるのとは、アプローチがだいぶ異なるのです。
「記念塔について考えること」を、メンバー共通の歩き出す、とりあえずの場所とする…。
こんなイメージに近いのではないでしょうか。
だから
「このグループ展は、記念塔解体に賛成なのか、反対の立場なのか」
と問うこと自体、政治の問いであって、アートをめぐってのものの言い方とはいえないわけなのです。
世の中は、白黒はっきりつけられない案件にみちているのです。

以下、簡潔な紹介に努めます。
今回新たにメンバーに加わった佐藤祐治さんの「空白を耕す」。
道内の開拓記念の碑などを調べはじめたら「100や200ではきかない」ことがわかり、その「多くは神社の境内や公民館、小中学校の敷地内に配置されていた」ということです。
(ちょっとツッコミますけど、小学校はともかく、中学校の敷地内ってことは、戦後ですよね)
札幌を中心にそれらの写真を撮り、碑の部分をくりぬいてプリントしたものを、おびただしく並べているのが、今回の作品です。
くりぬいた跡は空白で表され、碑の部分のプリントは、下の方のケースに飾ってありました。

わたしたちの認知のあり方について、鋭いところをついている作品であると感じました。
こういう記念碑などは、あらためて見ると存在感が大きいのですが、たいていの場合は、目に入っているのにもかかわらず気づいていなかったり、ちゃんと認識していなかったりすることが多いのではないかと思うのです。
百年記念塔ですら、地元の札幌にいるのに、よく知らない人が意外と多いのですから。
(ついでにいえば、野外彫刻も、気づいていない人がびっくりするほどたくさんいます。アートや彫刻に興味がないと、最近の言葉で言えば「スルーして」しまうようです)
ただ、わたしたち北海道人が日々目にしている風景は、この150~100年ぐらいの間に先人が原始林や野を切り開いて人為的につくり出したものであり、記念碑はその風景の劇的な変容を記念したものでもあるはずなのです。
それが目に入っていない、あるいは、仮になくなったとしても気づかれないのだとしたら、わたしたちは日々いったい「何を見ている」ことになるのでしょう。
次は「塔を下から組む」展の言い出しっぺ、佐藤拓実さん。

「百年記念塔(幻視2)」と、ドローイングのシリーズ。
「百年記念塔と慰霊の問題について考えながら描いたシリーズ」とのこと。

「塔の群れ」。
パネルには、北海道の塔的な建築物を年表のように絵画にした―とあります。
こんなものがあるのか~(たとえば、空知管内の秩父別町や栗沢町(現岩見沢市栗沢町)に記念塔があるとは知らなかった)という素朴な驚きがあります。
また、トマムリゾートのタワーやJRタワー(札幌駅)、住友奔別炭鉱立坑などが入っているのもおもしろい。
バベルの塔は、ブリューゲルがローマのコロセウムを思い出しながら想像で描いたもので、北海道とは関係ありません。
これがかき込まれていることによって、輝かしい塔の存在が、一気にむなしい色調を帯びてくるようです。
ただし、砂澤ビッキの「四つの風」(札幌芸術の森野外美術館にある)だけは、なんかちょっと違うような気がするんだよな。
世界を制してやろうという人間の野望とは正反対のほうを志向している彫刻ではないでしょうか。

「自然」と「人為」とを、ともすれば二項対立的にとらえがちなわたしたちの考え方に、鋭利な疑義を差し込んでくる作品。
キャプションには四つの地名が記されています。
根室半島・春国岱
焼尻島・鶯谷
津軽半島・上宇鉄
夏泊半島・椿山
鶯谷には、
「アカエゾマツ天然林。
天狗の祟りがあるので、決してここに生えている木は切ってはならないと伝わる。」
と附記されています。
だとすれば、その天然林は、100%の自然景観といっていいのだろうか…。
これも、佐藤祐治さんとおなじように、わたしたちの風景の認識のしかたについて、根底から考えることを求める作品であるように思われます。
やはり長くなってしまったので、続きは次項へ。
2020年10月3日(土)~11月29日(日)午前9時半~午後5時(入場30分前まで)、月曜休み
市立小樽文学館 (小樽市色内1 http://otarubungakusha.com/exhibition/2020033734 )
一般300円、高校生・市内高齢者150円、中学生以下無料
【告知】竣工50年 北海道百年記念塔展 井口健と「塔を下から組む」
□【井口健×佐藤拓実 往復書簡】 https://100kinentou-oufukushokan.com/
□「塔を下から組む」公式サイト https://build-the-tower-from-the-bottom.tumblr.com/
■塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展(2018)
■続き
■続々
【告知】塔を下から組むー北海道百年記念塔に関するドローイング展 (2018)
□佐藤祐治さんサイト http://metasato.com/
■中嶋幸治 芸術記録誌「分母」vol.2 特集メタ佐藤 −包み直される風景と呼び水− (2017)
■メタ佐藤写真展「光景」 (2014)
【告知】「写真 重力と虹」展 (2013)
【告知】写真展「三角展」 (2011)
■さっぽろフォトステージPart1 (2009)
■さっぽろフォトステージ (2008)
□佐藤拓実さんhttp://satotakumiart.wixsite.com/kotatusima
□こたつ島ブログ https://kotatusima.hatenablog.com/
■大友真志・佐藤拓実「天塩川」 (2019)
■第10回 茶廊法邑ギャラリー大賞展 (2014)
中村絵美さん http://eminakamura.blogspot.com/
■ 写真展「長万部写真道場+(プラス) ローカル・カラーの時代」 (2019)
【告知】長万部写真道場 再考ー北海道における写真記録のこれから(2018年2月)
■生息と制作-北海道に於けるアーティスト、表現・身体・生活から 2013Mar.東京(12)
■北海道教育大学卒業制作展
・JR小樽駅から約710メートル、徒歩9分
・中央バス、ジェイアール北海道バスの都市間高速バス「高速おたる号」「高速ニセコ号」「高速いわない号」の「市役所通」から約700メートル、徒歩9分
(この項続く)