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北海道美術ネット別館

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続き■ 塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展 2018年11月10日は5カ所(4)

2018年11月15日 21時36分34秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(承前)

 のこる4人の作品について、いくぶんはしょりがちになるけれど、述べておこう。

 あらかじめ言い訳しておきますが、カメラの調子が悪いので、あまり良い写真がないです。


 道教大から東京、鳥取などさまざまな土地に滞在し、いまは郷里の渡島管内長万部町を拠点に、古いアマチュア写真の発掘などにも取り組んでいる中村絵美さん。
 今回の作品は写真とドローイング。ドローイングは、長万部の南、八雲町落部にある、アイヌ民族の弁開凧次郎(1847~1924)の業績を記した碑がテーマということだ。
 写真は、根室の尾岱沼おだいとう春国岱シュンクニタイなど。

※この段落、一部訂正しました。すみません。

 百年記念塔が「北海道」という大きな対象(物語)を語り継ぐモニュメントであるとするなら、中村さんの作品は、もう少し小さくて身近で地域的な「語り継ぐもの」の可能性を提示しようとしているのではないかと思った。
 そして、これは言うまでもないだろうが、百年記念塔と100年記念行事の際にアイヌ民族の存在がそもそもほぼ忘れられていたことに対して、クギをさすことにもなっている。

 凧次郎は大正天皇が皇太子だったときにクマを贈ったことで知られ、中村さんはトークで触れていなかったが、有名な八甲田山の行軍の遭難事件では救助に大活躍している。


 大橋鉄郎さんは、絵と動画。
 絵は、記念塔の前でピースサインしている女の子を描いたものが3点。
 動画は短いもので、列車の先頭の窓から記念塔が見えるというもの。

 彼はもともと記念塔に思いいれがなく、今回の出品にあたっても、とうとう最後まで実物を見ないで済ませてしまったらしい。
 今は、google earthなどで、その気になればいくらでも映像を見ることができるのだ。
 大橋さんの存在は、この会場で、一種の飛び道具のようになっていて、おもしろい。実際に存在する塔と、流通するイメージとしての塔との関係を考えさせてくれるのだ。

 個人的なことをいえば、JR函館線に乗っていたり、国道12号を走っていたりすると、札幌から江別・岩見沢方面へ向かうにつれ、左側の車窓に記念塔が見えてくるのだが、白石から厚別に向かうあたりで、今度は右側の車窓に姿を現すことが、子どものころは不思議だった(地図を見て、ほどなく解決したが)。


 大橋さんとは反対に、実際に現地に足を運んだことが作品の契機になっているのが山田大揮さん。
 ただし、彼は直接記念塔に言及するのではなく、塔の周辺に広がる野幌森林公園(国内最大級の平地の森林)でつかまえたクロカクムシという虫を題材にしており、これまた「斜めからの視線」ということでは大橋さんと似ているのかもしれない。

 彼は道教大の大学院に通う若手で、「七月展」ではかなり大規模なインスタレーションを展開していた。


 最後は、言いだしっぺの佐藤拓実さん。
 彼も道教大の出身で、いまは東京を拠点にしている。

 変化球投手の多い(笑)今回の展覧会のなかでは、断然直球投手で、記念塔じたいをモティーフにしたドローイングを何点も並べていた。
 この画像にはないが、右端にあった、記念塔に足がはえている絵は、アイヌ民族で多くの著書がある山本多助さんの詩をもとにしているという。

 そのとなり、4枚の絵が並んでいるのは、砂澤ビッキ「四つの風」を踏まえていると、アーティストトークで説明していた。
 巨大な雪だるまが描かれているのは、上から見て雪の結晶をかたどっているのであれば、雪を載せればいいじゃん―という発想という。毎冬、排雪場所に難儀しているのなら、ここを雪捨て場所にすればいいとも話していた。
 まあ、雪を捨てるのと、雪だるまに整形するのとでは、えらい違いがあるが、道外・海外からの観光客は、春に雪捨て場の雪山を見ただけで喜ぶので、除雪した雪をここに運び入れるというアイデアは悪くないかもしれない。





 というわけで、完成されたテクニックを鑑賞する展覧会ではなく、このように、見る人にいろいろな思考を促すタイプの展覧会としては、これまで道内で開かれてきたなかでも屈指のものといえるのではないだろうか。
 「先住民族の忘却」「父権主義的でマッチョな塔のあり方」を批判する視座を持ちながらも、単に槍玉にあげるのではなく、むしろそれを踏まえたうえでいっぷう変わったものの見方を提起し、開かれた思考へと見る人をいざなうものだったといえる。いいかえれば、ある特定の方向に議論を誘導するのではなく、自由な発想が繰り広げられており、見る側も自由にものを考えるような展覧会なのだ。

 なので、以下、こちらも自由に付け加えたい(すみません、まだ続きます)。


2018年11月1日(木)~11日(日)午前11時~午後6時
ギャラリー門馬(札幌市中央区旭ケ丘2)


□公式サイト https://build-the-tower-from-the-bottom.tumblr.com/

【告知】予告の記事


大橋鉄郎 http://tetsuro-ohashi.com/


佐藤拓実 http://satotakumiart.wixsite.com/kotatusima
第10回 茶廊法邑ギャラリー大賞展 (2014)


中村絵美 http://eminakamura.blogspot.com/
【告知】長万部写真道場 再考ー北海道における写真記録のこれから(2018年2月)
生息と制作-北海道に於けるアーティスト、表現・身体・生活から 2013Mar.東京(12)
北海道教育大学卒業制作展


山田大揮 @_yamadahiroki




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