(承前)
だいぶ間があいてしまったが、澁谷俊彦さんと中村修一さんの作品について。
冒頭の画像は、2人の作品展開エリアが近接しているあたりで撮った。
澁谷さんの作品系列は、冬は「SNOW PALLET」シリーズなどいくつかあり、今回は、おびただしい数のカラフルなプッシュピンをさしていく「Generation」シリーズ。
札幌都心部の地下にある「500m美術館」の壁面に展開したこともあったが、自然環境の中にしのばせることも多い。その場合は、倒木にさすなど、生命を傷つけないような配慮をしている。
そのため、どこに作品があるのか気づかない人もいる。
自然にはえているキノコや粘菌のように見えるのだ。
プッシュピンがある家は多いと思う。
冷蔵庫の前にコルクボードをさげ、そこにメモなどを固定するときに使う。画鋲のカラフルなやつだ。
それを「さしていくだけ」で作品ということに、抵抗感を抱く人もいるらしい。
しかし、絵の具だって、文具・画材店で買ってくる工業製品なんだから、同じことだ。
たしかにピンを二つ三つさすだけではオリジナルの作品とはいえないかもしれないが、澁谷さんの場合は数千個に及ぶこともある。それを、配置を考えながらさしていくのは、けっこうな作業量である。
今回のトークで澁谷さんは、プッシュピンを使うことの意味について
「家に帰ればこんなピンがあるかもしれない。日常生活とアートが近づくパイプのような役目も持ち得るのでは」
と話す。
そして
「ふだん自分たちは意外と足下を見ていない。一歩立ち止まってかがんでみると、そこには本物のキノコが生えていたりする。作品はいわば『気づき』のための装置だと考えてもらえれば」
ともいう。
澁谷さんによればこの森は、苫小牧市のシンボル的な山である樽前山の噴火による火砕流と火山灰でできた土地のため、木は根を張りづらく、すこし成長すると倒れてしまうという。
「木の寿命が他よりも短いらしく、植物にとっては過酷な環境なんです」
少し歩くと、たしかに、下草があまり多くなく、倒木はあちこちにある。
倒木更新から新たな命へと代替わりしていく現場が、よく観察できる森なのだ。
木はミズナラなどオーク類が多いようで、針葉樹は見かけない。
落ちたドングリから小さなオークが芽を出しているのを見るのは、いいものだ。
かつて版画を制作していた澁谷さんだが、その後インスタレーションに移行し、最近は、森で拾ってきた種子などをそのままアクリルのケースにおさめた「WHITE COLLECTION」シリーズなど、自然のほうに寄った立ち位置の作品が多くなってきた。
「自然は裏切りませんから」
さて、中村修一さんである。
中村さんは陶芸を始めるとき、父親(画家で新道展会員の中村哲泰さん)に相談したところ、紹介されて師事したのが、北広島の松原成樹さんだったという。
松原さんは食器も作るが、オブジェを多く手がけており、その影響で中村さんは食器づくりはやめてしまった。
「陶の粘土は、自由自在にできる良い素材です。とにかく、土をこねるのも焼くのも楽しい」
茶廊法邑や、恵庭のカフェの庭などの個展で使ったものに、新作を加えて、数もだいぶ増えてきた。
今回は280個ぐらい、並べているという。
粘土に鉄の棒をさして、地面に突き刺しているので、おそらく強い風が吹けばゆれるのだろう。
あとは、くどくどと説明する必要はないような気がする。
水滴のような、あるいは種子のような独特の形状は、見る人が自由に見ればいいのである。
そこには、森が持っている生命の発露があると、筆者には感じられる。
2019年9月14日(土)~20日(金)公開制作 / 9月21日(土)~29日(日)午前10時~午後4時半
イコロの森「森の学校」周辺 雑木林エリア(苫小牧市植苗565-1 www.ikor-no-mori.com )
9月22日(日)午後1時半からアーティストトーク
□公式Facebook ページ https://www.facebook.com › ikor.meetsart
関連記事へのリンク
【告知】
澁谷俊彦(2008年以降)
■澁谷俊彦 個展 -起源・発生- (2019年7月)
■Toshihiko Shibuya 澁谷俊彦 Snow Pallet 11
「河口」展、澁谷俊彦作品をたどる (2018)
■澁谷俊彦「Snow Pallet 10」
北海道文化賞の授賞式に出席してきました (2017)
■北海道文化奨励賞受賞記念/澁谷俊彦個展「White Collection Black Series」(2017)
■Toshihiko Shibuya “Snow Pallet 9” 澁谷俊彦 (2016~17)
ヒト科ヒト属ヒト 帯広コンテンポラリーアート2016 (執筆中。告知はこちら)
■澁谷俊彦展 White Garden (2016年6~7月)
■澁谷俊彦 新作ホワイトコレクション (2015)
■澁谷俊彦 ANNIVERSARY COLLECTION
■ICE HILLS HOTEL - アイスヒルズホテル in 当別 (2014)
■防風林アートプロジェクト (2014)
■澁谷俊彦 THE WHITE COLLECTION / GENERATION(2013)
【告知】SNOW PALLET III and 4 : Toshihiko Shibuya installation(~2013年2月17日・千歳/~3月雪解け・札幌)
CREATIVE HOKKAIDO METTS HONG KONG / 香港で北海道の食、観光、アートをPR
【告知】奔別アートプロジェクト (2012年)
■JRタワー・アートプラネッツ2012 楽しい現代美術入門 アルタイルの庭(2012年)
■澁谷俊彦「風の森II」Forest of wind 2012-II
【告知】澁谷俊彦「風の森 II」 Forest of wind 2012-II
■澁谷俊彦 SNOW PALLET 2、札幌芸術の森美術館で2012年4月14日から撤収(13日に一部撤収)
Toshihiko Shibuya's works are on the overseas website (2012)
■「ハルカヤマシロシメジ繁殖計画」 ハルカヤマ藝術要塞
■澁谷俊彦 茶室DEアート (2011)
【予告】澁谷俊彦展 -トノサマガエルの雨宿り (2011年5月)
■Snow Scape Moere 6 澁谷俊彦「SNOW PALLET」(2011年2月)
■PLUS ONE THIS PLACE(2010年9月)
■PLUS 1 +柴橋伴夫企画 空間の触知へ-連鎖の試み 藤本和彦 澁谷俊彦(2009年8月)
■澁谷俊彦展-森の雫09- 茶室DEアート (2009年7月)
■澁谷俊彦個展-青い雫09-
■澁谷俊彦展 森の雫(2008年3月)■つづき
2000~07年は、上のリンクからたどってください
中村修一
■中村修一陶展 (2019年5月)
■中村修一陶展 (2018)
■中村修一展 (2015年)
■中村哲泰おやこ展 八子晋嗣 中村修一 八子直子 (2009)
■New Point(2004年)
■中村修一・前川アキ二人展(2003年)
■友野直実・中村修一展(2002年)
■お正月展(2002年)
2019年秋の旅(0) さくいん
だいぶ間があいてしまったが、澁谷俊彦さんと中村修一さんの作品について。
冒頭の画像は、2人の作品展開エリアが近接しているあたりで撮った。
澁谷さんの作品系列は、冬は「SNOW PALLET」シリーズなどいくつかあり、今回は、おびただしい数のカラフルなプッシュピンをさしていく「Generation」シリーズ。
札幌都心部の地下にある「500m美術館」の壁面に展開したこともあったが、自然環境の中にしのばせることも多い。その場合は、倒木にさすなど、生命を傷つけないような配慮をしている。
そのため、どこに作品があるのか気づかない人もいる。
自然にはえているキノコや粘菌のように見えるのだ。
プッシュピンがある家は多いと思う。
冷蔵庫の前にコルクボードをさげ、そこにメモなどを固定するときに使う。画鋲のカラフルなやつだ。
それを「さしていくだけ」で作品ということに、抵抗感を抱く人もいるらしい。
しかし、絵の具だって、文具・画材店で買ってくる工業製品なんだから、同じことだ。
たしかにピンを二つ三つさすだけではオリジナルの作品とはいえないかもしれないが、澁谷さんの場合は数千個に及ぶこともある。それを、配置を考えながらさしていくのは、けっこうな作業量である。
今回のトークで澁谷さんは、プッシュピンを使うことの意味について
「家に帰ればこんなピンがあるかもしれない。日常生活とアートが近づくパイプのような役目も持ち得るのでは」
と話す。
そして
「ふだん自分たちは意外と足下を見ていない。一歩立ち止まってかがんでみると、そこには本物のキノコが生えていたりする。作品はいわば『気づき』のための装置だと考えてもらえれば」
ともいう。
澁谷さんによればこの森は、苫小牧市のシンボル的な山である樽前山の噴火による火砕流と火山灰でできた土地のため、木は根を張りづらく、すこし成長すると倒れてしまうという。
「木の寿命が他よりも短いらしく、植物にとっては過酷な環境なんです」
少し歩くと、たしかに、下草があまり多くなく、倒木はあちこちにある。
倒木更新から新たな命へと代替わりしていく現場が、よく観察できる森なのだ。
木はミズナラなどオーク類が多いようで、針葉樹は見かけない。
落ちたドングリから小さなオークが芽を出しているのを見るのは、いいものだ。
かつて版画を制作していた澁谷さんだが、その後インスタレーションに移行し、最近は、森で拾ってきた種子などをそのままアクリルのケースにおさめた「WHITE COLLECTION」シリーズなど、自然のほうに寄った立ち位置の作品が多くなってきた。
「自然は裏切りませんから」
さて、中村修一さんである。
中村さんは陶芸を始めるとき、父親(画家で新道展会員の中村哲泰さん)に相談したところ、紹介されて師事したのが、北広島の松原成樹さんだったという。
松原さんは食器も作るが、オブジェを多く手がけており、その影響で中村さんは食器づくりはやめてしまった。
「陶の粘土は、自由自在にできる良い素材です。とにかく、土をこねるのも焼くのも楽しい」
茶廊法邑や、恵庭のカフェの庭などの個展で使ったものに、新作を加えて、数もだいぶ増えてきた。
今回は280個ぐらい、並べているという。
粘土に鉄の棒をさして、地面に突き刺しているので、おそらく強い風が吹けばゆれるのだろう。
あとは、くどくどと説明する必要はないような気がする。
水滴のような、あるいは種子のような独特の形状は、見る人が自由に見ればいいのである。
そこには、森が持っている生命の発露があると、筆者には感じられる。
2019年9月14日(土)~20日(金)公開制作 / 9月21日(土)~29日(日)午前10時~午後4時半
イコロの森「森の学校」周辺 雑木林エリア(苫小牧市植苗565-1 www.ikor-no-mori.com )
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中村修一
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(この項続く)
2019年秋の旅(0) さくいん