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「河口」展、澁谷俊彦作品をたどるー 2018年7月8日続き

2018年07月11日 11時11分11秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(承前。長文です)

 7月8日、札幌市手稲区の手稲山口バッタ塚から、小樽市の新川河口・大浜海岸に至る地域へ出かけたのは、前項で書いたとおり、札幌の美術家澁谷俊彦さんが、今年の帯広コンテンポラリーアートの「河口」展の参加作品を設置したのを見学するためだった。

 厳密にいえば、札幌市の行政区域のなかに「河口」はない。
 札幌からいちばん近い河口が、この新川の河口である。





 ところで、なぜ手稲山口バッタ塚なのか。

 くわしくは「河口」展の参加作家紹介の澁谷さんのページに書いてあるが、開拓初期には、バッタ類の大群が飛来して農作物に重大な被害を与えたことが、北海道でもあったという(「大草原の小さな家」みたいですね)。
 1880年(明治13年)には、十勝地方からこの山口村にバッタが飛んできて畑を食い荒らし、農民たちは駆除に努めるとともに、札幌じゅうからバッタの卵を集めて焼き、塚を作って埋めたという。
 バッタ塚は札幌の他の地域にもあったらしいが、現存するのはこの手稲山口のここだけ。市の史跡に指定されている。
 澁谷さんは「十勝から飛んできた」というところにピンときたようだ。たしかに、今回の趣旨にはふさわしい。

 バッタは、植物の種子と違って、厄介者ではあるが、地域を越えて飛んでいく使者のような存在である。
 アートも地域を越えて飛んでいく。
 そして、これを機に、あまり知られていないであろう開拓の歴史に、あらためて目が向けられれば良いと思う。




 それにしても、バッタ塚の碑のすぐ前に大きな柵が設置されていて、解説板も読みづらいのが、ちょっと気になる。


 作品は「起源・発生」-GenerationⅤ around the estuary-。

 澁谷さんといえば、積雪期がメインの「Snow Pallet」シリーズが有名だが、昨夏のポンペツ藝術要塞など野外展の場合は、この「Generation(ジェネレーション)」シリーズを設置することが多い。枯れ木や倒木などに、小さなピンを刺し込むのだ。
 「設置」といっても、自然へのダメージを抑えたささやかなもので、事前に場所を教わっていないと、見つけられないか、気づいても昆虫の卵にしか見えないかもしれない。わずかに自然に介入することで、あらためて鑑賞者に、自然へまなざしを向けてもらうことを促す-。そんなインスタレーションといえるのではないだろうか。

 付け加えるなら、自然を大規模に改変する米国流の「アースワーク」とは対極にある作品のあり方だということは、指摘しておきたい。



 以下、新川の左岸沿いに、設置されている作品の写真を紹介する。

 作家から教わった上で、よく目をこらさないと気づかない場合が多い。

 いずれの設置個所も、すでに枯れたり倒れたりした木の幹や枝。
 白いピンが表面に散らばっているのを見ると、倒木更新で、新たな芽やひこばえが出ているのを見たときのような感慨を抱く。
 あるいは、カエルが産み付けた卵のようでもある。
 作品は、まさに生命の世代(Generation)更新のよろこび(とかなしみ)をうたいあげているように、筆者には見える。


 ピンを設置してからまわりにキノコが生えてきたり、あるいは、黄色いピンを打ってから周囲に黄色の粘菌のようなものがついていたり、澁谷さんは設置作業後に体験した興味深い話をしてくれた。

 この一帯では、ハヤブサやアオサギなど多くの鳥がみられ、バードウオッチングの常連もいるとか、ネズミやモグラによく出くわすなど、札幌の中心部など大都市ではなかなかない、自然との出会いがあるとのことだ。








 新川は、石狩湾に注ぐ。

 遠くに、留萌管内増毛町の暑寒別連峰が望まれる。

 対岸には、釣り客らしい車が並び、彼ら相手のプレジャーボートが川を進んでいるが、こちらの左岸側には、大きな望遠鏡をのぞくバードウオッチングの男性がいるだけで、人影はほとんどない。

 海岸は砂浜が続く。
 ここから西に向かって歩くと、おたるドリームビーチ(旧称は大浜海水浴場)になる。

 銭函以西の小樽の浜がほとんど石続きであることを思うと、ここまで砂浜が長いのは驚きだ。
 石狩湾新港の造成以降、潮の流れが変化し、砂が浸蝕されているらしいが。


 澁谷さんはここで見つけた流木にもピンを刺したが、事故の恐れも考慮し、海水浴シーズンになる前に撤去するという。


 波打ち際の流木。
 枝の先端に白いピンがつけてあるのが見えるだろうか。

 撮影用にこの場所に置いたのであり、波に持って行かれないように、ふだんはもっと内陸側に置いている。

 遠くに見えるのは、小樽の市街地から祝津地区にかけての海岸だ。

 それにしても、これほどおだやかな日本海は久しぶりに見たような気がする。

 足下は適度に湿っていて、歩きやすかった。
 カニの死骸や貝殻がずいぶん打ち上げられている。鳥たちの餌になっているらしい。


 もうひとつの流木の作品。


 わたしたちは、ここまで砂浜を歩いてから、手稲山口バッタ塚まで引き返した。

 以下、別項に続く。



□OBIHIRO CONTEMPORARY ART 2018 http://tokachiart.jp/

https://www.toshihikoshibuya2.com/


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(別項に続く) 


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