1)知事が「建て替えず」表明
(全3章です)
2024年10月3日の北海道新聞1面トップに、1977年開館で老朽化が目立つ道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)を建て替えることはせずに、改修により延命を図る方針を、鈴木知事が明らかにしたという記事が出ていました。
この話題は同新聞に何度か掲載されていますが、第3、第4社会面に載っていることが多かったので、ちょっと驚きました。知事が表明したのが記者会見ではなく、道議会本会議でもなく、道議会の委員会の場で、他社の記者がいなかったので、道新の独自記事(スクープ)になったのかもしれません。真相はわかりませんが。
当ブログはこの話題についてはあまり触れていません。
道や道教委が美術館に投じる予算は乏しく、購入予算がゼロという年もありました。事業予算も十分とは言いがたく、地方館の主催展覧会で図録を作るお金がないということもめずらしくありません。それなのに、建物には何十億円というお金を投じるという話が降ってわいていることに、筆者がしらけていたというのが、その理由です。文化教育にはお金を出し渋る一方で、土木建設には潤沢な予算が確保されるという、いかにもわが国らしい光景に、ため息をついていたというわけです。
ただし建物が新しくなるときには、作品購入にも予算がつくことがあります。それを考えると、鈴木知事の今回の方針表明は、その可能性を否定したことになります。
道や鈴木知事には、新築を取りやめることで浮いた予算を、ソフト面(購入や事業)に回してもらうよう、お願いしたいところです。
2) そんなにいい建築なのか
今回のニュースで道立近代美術館の全面改築先送りの大きな理由に挙げられていたのが、建物自体の建築的な意義でした。
筆者が建築に疎いから(正確には建築にも疎いというべきでしょうが)かもしれませんが、正直言ってそれほどの建物なのかと思います。
確かに形状は美しい。しかし、美術館の建築として、例えば金沢21世紀美術館や島根県立美術館のように高く評価されているという話を、筆者は一度も耳にしたことがありません。
もっとしろうとくさい意見を言うならば、たとえば道庁赤れんがや札幌市時計台、北大博物館などを老朽化したから建て替えるという方針が決まったならば、大きな反対運動に発展するのは間違いないでしょう。すでに跡形もなくなってしまった野幌の百年記念塔も、相当な議論が巻き起こりました。
しかし、道立近代美術館の建物をめぐって一般の道民から同様の声が出るとは、とても考えられません。
むしろ、取り壊しが決まっているハーフティンバー形式の知事公館のほうが、貴重だと感じて惜しむ道民が多いのではないでしょうか。
あの合掌造りを思わせる道立近代美術館の形状は、美しさの代償として、重大な欠点を有していると思います。
それは、拡張性です。
新築だろうが改修だろうが、美術館の拡張は絶対に必要です。
展示室があんなに狭い都道府県立美術館があるのか、筆者は寡聞にして知りません。
筆者が思いつくのは、青森、埼玉、東京都現代、神奈川(葉山)、新潟、愛知、兵庫、鹿児島などですが、どこも、統計を持ち出すまでもなく、道立近代美術館よりも広いのは明白です。
北海道の美術館建設が他の県よりも早く実現したのは事実です。当時はあの広さで十分だったのでしょう。今となっては、展覧会を巡回させる際にも困ることがあるのではないでしょうか。他館で並べることのできた作品が、入りきれないからです。
付け加えれば、現在の美術館は、展示室の入り口がひとつで、企画展の帰りに所蔵品展も鑑賞できますよ、というつくりになっているところが主流です。しかし、現在の道立近代美術館は、そういう柔軟な動線変更が困難です。
拡張性に話を戻すと、展示室を広げるとか、左右の展示室のレイアウト変更とかに、増築で対応することが非常にしづらい建物なのです。見たらわかりますよね?
3) 改修にあたり望むこと
とはいえ、手をこまねいているわけにはいきません。
筆者としては、次のような改築改修案を提示したいと思います。
・現在の正面入り口から旗の掲揚台にかけてのスペースに平屋を増築してつなげ、ミュージアムショップとレストランカフェ、チケット関係を移設する。休館日でもそれらの店は営業可能となる。流政之作品は移設する
・2階の旧ミュージアムショップとレストランカフェの部分を展示室の続きとする。こういう改造で、1階か2階のいずれかで、左右の展示室をつなげた動線が実現できるはず
これらを最優先事項として、さらに、現知事公館側に新しい箱をつくり、地下道で現施設と結ぶといった案も検討できると思います。三岸好太郎美術館に増設という形をとれば、現道立近代美術館が修繕で急に休館する場合でも、規模を縮小して営業を続行することもできるでしょう。
本州の例を見る限りでは、地下に収蔵庫などを設けることには慎重でありたいです(万が一のとき水没するため)。
いうまでもないことですが、入れ物はなんでもいいのです。大事なのは、コレクションと展覧会です。
欧洲の有名美術館は王宮や発電所や鉄道駅を再利用している例がありますが、それらの館を語るときに、まず建物の話から始まることはあまりありません。
ソフト事業に力を注ぐ美術館であってほしいと、筆者は心から願っています。
(全3章です)
2024年10月3日の北海道新聞1面トップに、1977年開館で老朽化が目立つ道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)を建て替えることはせずに、改修により延命を図る方針を、鈴木知事が明らかにしたという記事が出ていました。
この話題は同新聞に何度か掲載されていますが、第3、第4社会面に載っていることが多かったので、ちょっと驚きました。知事が表明したのが記者会見ではなく、道議会本会議でもなく、道議会の委員会の場で、他社の記者がいなかったので、道新の独自記事(スクープ)になったのかもしれません。真相はわかりませんが。
当ブログはこの話題についてはあまり触れていません。
道や道教委が美術館に投じる予算は乏しく、購入予算がゼロという年もありました。事業予算も十分とは言いがたく、地方館の主催展覧会で図録を作るお金がないということもめずらしくありません。それなのに、建物には何十億円というお金を投じるという話が降ってわいていることに、筆者がしらけていたというのが、その理由です。文化教育にはお金を出し渋る一方で、土木建設には潤沢な予算が確保されるという、いかにもわが国らしい光景に、ため息をついていたというわけです。
ただし建物が新しくなるときには、作品購入にも予算がつくことがあります。それを考えると、鈴木知事の今回の方針表明は、その可能性を否定したことになります。
道や鈴木知事には、新築を取りやめることで浮いた予算を、ソフト面(購入や事業)に回してもらうよう、お願いしたいところです。
2) そんなにいい建築なのか
今回のニュースで道立近代美術館の全面改築先送りの大きな理由に挙げられていたのが、建物自体の建築的な意義でした。
筆者が建築に疎いから(正確には建築にも疎いというべきでしょうが)かもしれませんが、正直言ってそれほどの建物なのかと思います。
確かに形状は美しい。しかし、美術館の建築として、例えば金沢21世紀美術館や島根県立美術館のように高く評価されているという話を、筆者は一度も耳にしたことがありません。
もっとしろうとくさい意見を言うならば、たとえば道庁赤れんがや札幌市時計台、北大博物館などを老朽化したから建て替えるという方針が決まったならば、大きな反対運動に発展するのは間違いないでしょう。すでに跡形もなくなってしまった野幌の百年記念塔も、相当な議論が巻き起こりました。
しかし、道立近代美術館の建物をめぐって一般の道民から同様の声が出るとは、とても考えられません。
むしろ、取り壊しが決まっているハーフティンバー形式の知事公館のほうが、貴重だと感じて惜しむ道民が多いのではないでしょうか。
あの合掌造りを思わせる道立近代美術館の形状は、美しさの代償として、重大な欠点を有していると思います。
それは、拡張性です。
新築だろうが改修だろうが、美術館の拡張は絶対に必要です。
展示室があんなに狭い都道府県立美術館があるのか、筆者は寡聞にして知りません。
筆者が思いつくのは、青森、埼玉、東京都現代、神奈川(葉山)、新潟、愛知、兵庫、鹿児島などですが、どこも、統計を持ち出すまでもなく、道立近代美術館よりも広いのは明白です。
北海道の美術館建設が他の県よりも早く実現したのは事実です。当時はあの広さで十分だったのでしょう。今となっては、展覧会を巡回させる際にも困ることがあるのではないでしょうか。他館で並べることのできた作品が、入りきれないからです。
付け加えれば、現在の美術館は、展示室の入り口がひとつで、企画展の帰りに所蔵品展も鑑賞できますよ、というつくりになっているところが主流です。しかし、現在の道立近代美術館は、そういう柔軟な動線変更が困難です。
拡張性に話を戻すと、展示室を広げるとか、左右の展示室のレイアウト変更とかに、増築で対応することが非常にしづらい建物なのです。見たらわかりますよね?
3) 改修にあたり望むこと
とはいえ、手をこまねいているわけにはいきません。
筆者としては、次のような改築改修案を提示したいと思います。
・現在の正面入り口から旗の掲揚台にかけてのスペースに平屋を増築してつなげ、ミュージアムショップとレストランカフェ、チケット関係を移設する。休館日でもそれらの店は営業可能となる。流政之作品は移設する
・2階の旧ミュージアムショップとレストランカフェの部分を展示室の続きとする。こういう改造で、1階か2階のいずれかで、左右の展示室をつなげた動線が実現できるはず
これらを最優先事項として、さらに、現知事公館側に新しい箱をつくり、地下道で現施設と結ぶといった案も検討できると思います。三岸好太郎美術館に増設という形をとれば、現道立近代美術館が修繕で急に休館する場合でも、規模を縮小して営業を続行することもできるでしょう。
本州の例を見る限りでは、地下に収蔵庫などを設けることには慎重でありたいです(万が一のとき水没するため)。
いうまでもないことですが、入れ物はなんでもいいのです。大事なのは、コレクションと展覧会です。
欧洲の有名美術館は王宮や発電所や鉄道駅を再利用している例がありますが、それらの館を語るときに、まず建物の話から始まることはあまりありません。
ソフト事業に力を注ぐ美術館であってほしいと、筆者は心から願っています。
私も今回急に「建物の価値が…」という話が出てきたので、少し意外に思いました。
今までその論点が出た記憶がないので、何だか後付けのように聞こえますね。
確かにデザイン性が感じられる建物であるとは思いますが。
先日、富山市ガラス美術館に行ってきたのですが、どんなジャンルでも数十年あれば素人に分かるくらい進化するものだと思いました。
「形の流行りが違う」ではなくて、もう明らかに「ジャンルに包含されるもの自体が変わっている」くらい違います。
それを思うと近美のコレクションは止まっている感じがします。
ここから(例えば)50年、美術館の方向性を含めた議論をして、それとセットで建物の話を決めて欲しいですが…。
ただ、本文にもありましたが、美術館業界の人からは聞いたことはありません。
今回筆者はハード面(建築)を中心に書きました。
SHさんのおっしゃるとおり、コレクションの停滞ぶりは目を覆うばかりですし、自主企画もほとんどないという、惨憺たるありさまです。