北海道美術ネット別館

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■第2回 朝里川 桜咲く現代アート展 (2022年5月14~22日、小樽)

2022年05月24日 18時06分06秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 戦後北海道を代表する芸術家のひとり阿部典英さんが2014年、札幌から小樽に転居したときいたときは、おどろきました。
 1939年(昭和14年)生まれですから、すでに70代半ば。正直いって、その年齢であらたな挑戦をする姿勢に、脱帽したのです。
 今回、会場でばったり会った際に聞くと、大学を辞めると制作や作品保管の場所に困ることが予想されたので、かなり以前からアトリエとして使える建物を探して、小樽の朝里地区の民家にあたりをつけていたとのことです(「新光」は、朝里の山側で、小樽市中心部よりも札幌に近い)。

 
 札幌と小樽は隣町で、快速列車だと30分余り。
 相互に通勤・通学している人も多いですが、アートシーンは小樽独自のものがちゃんと存在しています。
 今でこそ、札幌が圧倒的な大都会になっていますが、大正時代までは小樽が北海道を代表する経済都市だった頃の名残でしょう。
 阿部典英さんは、単に郊外のアトリエ用地として小樽に移り住んだのではなく、小樽の作家仲間と交流し合い、グループ展にも参加して、小樽の地に根ざした作家として活動しているようです。

 
 朝里川沿いに咲く桜の花と、アートを楽しもうと、昨年に始まったこの展覧会も、小樽在住・ゆかりの作家が出品しています。
 個々の作品がどうのこうのという前に、筆者は会場を見渡して、なんだかうれしくなりました。
 戦後の北海道美術史を彩ってきた、出品者の手弁当の企画による数々の野外美術展・大型グループ展の多くが、「BENIZAKURA PARK ART ANNUAL」などを除くと終了してしまっていますが、ここにこうして、見事に復活しているからです。
 しかも「北海道立体表現展」の声かけ役だった阿部典英さん、「ハルカヤマ藝術要塞」の実行委員長だった渡辺行夫さんが、顔をそろえているのですから、これは見に行かない手はないでしょう。

 
 冒頭画像は、阿部さんの「オヨメサンの花」(2019)。
 出品作品リストには記載されていません。
 「遊びで作ってみたんだよ」
とご本人はおっしゃいますが、なかなか楽しい作品です。木材で形を作り、着彩したようです。
 ちょうど花に虫が止まっていたのを見て(下のリンクコーナーの作)、またうれしくなってしまいました。

 全体で6本の花が、植え込みになかば隠れるように設置されていました。


 出品作品リストにあったのは、屋外では次の4点です。
「ユキミザケ」(1982・2011)=230×70×70センチ
「ドウショウモナイ」(1981・2003)=189×95×81
「隆(A)」(1973・2016)=71×106×99
「隆(B)」(1973・2016)=60×122×106

 2枚目の画像は「隆(A)」。
 4点とも、阿部さんの初期の代名詞だった半硬質ウレタンを用いており、お行儀の良いアート作品とはちょっと異なる生々しい物質感をたたえています。

 3枚目の画像は「オヨメサンの果実の木」(2019)=200×160×100

 3点組みで、いかにも阿部さんらしい造形だと思います。

 
 渡辺行夫さんは、大きな石の彫刻を手がけてきましたが、近年はイタドリを素材にしています。
 軽くて、雑草としてそこらじゅうに生えて成長も早いため、ほとんど無尽蔵に確保できるのが利点です。

 この「ティラノサウルス」は、330×800×180センチの大作です。
 巨大な作品なので、ふだんは三つの部分にわけて保管しています。会場の公園の片隅に、梱包に使った木箱が置かれていました。
 筆者が見たのは、BENIZAKURA PARK ART ANNUAL 2020(札幌市南区)に次いで2度目。
 阿部典英さんによると、それ以前に、伊達市で展示したのが最初だそうです。

 イタドリ製とはいえそれなりに大きくて重いので、風の強い日に倒れないように、支え棒をして、まわりをネットで取り囲まれていました。
 BENIZAKURA PARK ART ANNUAL 2020 のときに比べると、あたりが広いことも手伝って、ちょっと怖くなくなったように見えます(笑)。また、そのときにあった、作者によるテキストは、今回は見当たりません。
 もちろん、恐竜はリアルで迫力たっぷりなのですが。


 次(パソコンでは右側)の画像は「躍り木」。
 2021年の新作で、150×200×150センチ。
 

 江川光博「BACK NET BLUES 2022」


 江川さんは小樽の現代アートシーンで長く活動してきた人です。

 漁網などに取り付けられていそうな楕円形の物体約85個が、グラウンドのバックネットに取り付けられています。

 今回の野外展は、全体的には楽しいのですが、テキストの呈示がまったくないので、このような作品に関しては、どうやって解釈して良いのかちょっと悩んだのも事実です。
(もちろん、どうやって見ようと、自由なんでしょうが…)


 次は「Kit_A」名義で、ロードコーンを題材にした作品で知られる作家の「朝里川公園のためのMANGA Comicative for Asarigawa Park ~Is War Inevitable? ~」。

 これはロードコーンではなく、Kit_A さんがたまに取り組んでいる漫画(という表現の制度)を使った作品です。

 そして、筆者が見た中では、ウクライナ情勢について、直接的ではないにせよ、はじめて言及した作品だと思います(黄色と水色を組み合わせた写真など、表層的な取り上げ方の作品は除く)。

  
 公園の木の枝や幹に、白い木枠がぶら下がり、風が吹くとゆらゆら揺れます。これが5、6個あったと記憶しています。
 画像で見ると枠の中は素通しのようですが、じつはアクリルミラーがはめ込まれていて、隅の方に、戦争を表象する絵が描き込まれています。

 鏡に反射して見える、まわりの平和な現実世界と、海の向こうで起きている戦争を対比させた、わかりやすい作品だと思います。


 
 最後は、上嶋秀俊「あしもとを見つめて」。

 上嶋さんは曲線で囲まれた大小の木片に着彩して配置するインスタレーションを制作しています。
 今回の作品は或る意味で、Kit_A さんの作品とは対照的に、身近で低い場所へ目を向けることを鑑賞者に促します。

 ちょっとキノコを思わせる、まるい物体が32個(筆者が数えたので、多少違うかもしれません)、草むらの中に点在しています。


 なお、すでにかなりの長文になっていますので、公園に隣接した「新光南会館」内の作品については、別の記事で紹介します。 


2022年5月14日(土)~22日(日)午前10時~午後6時(最終日~5時)
ながら公園(小樽市新光5)

□公式サイト https://art.asari.cc/

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□HIDETOSHI UESHIMA official site www.flatfield.info/UES/

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