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■交差する視点とかたち vol.2 (7月27日まで)

2008年07月26日 08時22分17秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 

 昨年夏ひらかれた、コンチネンタルギャラリーによる同名の企画展の第2弾。
 地元から造形作家の阿部典英、陶芸家の下沢敏也が引き続き出品し、あらたに、艾沢詳子がくわわった。
 一方、本州からは、日本を代表する陶芸家である鯉江良二が参加。
 「北海道」プラス「本州の前衛陶芸家」という図式が固まった。

 道内では、うつわを作っている人は大勢いるけれど、鯉江良二のように、陶とは何かを根源から問い続けるような仕事をしている作家はきわめて少ない。非常に興味深いと思う。
 ひとことでいって、人間の生と死を問う重量級の展覧会である。
 4人が静かに、しかし強烈に、火花を散らしている。
 ぜひ、会場に足を運んでいただきたい。

 冒頭画像は、鯉江良二「チェルノブイリ・シリーズ×森ヲ歩ク」。

           


 勉強不足の筆者はあまりえらそうなことはいえないけれど、鯉江良二はたんなる社会派(メッセージ先行型)ではないし、現代美術でインスタレーションがはやりだからやってみました-ということではないと思う。
 一般の工芸作家のように「用」から出発するのでもなければ、現代美術の素材でたまたま陶を使っているのでもないし、ましてモダニストのように「かたち」から発想するのでもないだろう。
 土とは?
 火とは?
 焼き物とは?
-という、素材のありかたを、深いところから考究し、とても広いところにまで考え及んでいる-ということではないか。
 原発が「原子力の火」であり、ヒロシマ・ナガサキが現代史最大の炎であり「ヤキモノ」であった-ということが、創作の原点にあるのだと思う。





 今回のインスタレーションのうち、背の高い部品のほうは、土にアルミをまぜ、ろくろで成形している。
 スピーカーや歯車などが、なにに由来するのかは、作者に会えなかったのでわからなかったが…。   


            

 ガラス器に入った「土の記憶 時の断層」は、広島の土を採集したり、黒焦げになった鉛筆を詰めたりしたもの。
 岡部昌生さんへのオマージュ的な意味あいがこめられているのだろう。
 ふたりには「ヒロシマ」という共通点がある。





 会期中に70歳をむかえる鯉江良二の活躍もすごいが、来年70歳の阿部典英の精力的な活動も、驚かされるものがある。
 隔年で、道立近代美術館でひらかれる「北海道立体表現展」や、札幌宮の森美術館での3人展「SCAN DO SCAN」など、年に5、6回は発表しているのだからすごい。
 今回は「ネェダンナサンあるいは木花(米谷雄平に捧ぐ)」。




 がんとの闘病の末に亡くなった画家の米谷さんは、1961-63年に活発にグループ展をひらいた「組織」で一緒だったことからもわかるように、阿部典英さんと長年の盟友であった。
 それを思うと、もう、この作品について、長々と駄弁を弄することはできない。
 のみの跡にこめられた悲痛な鎮魂の念に、しずかに思いをはせるしかない。

 壁にならんだ造形に近寄って写真を撮ろうとしたがうまくいかなかった。バックの鏡にじぶんの姿が、どの角度からでも映りこんでしまうのだ。
 わたしは思った。
 死者をいたむ作品であるけれど、未来の死者は、これを見ている者なのだ、と。
 だれひとり死をまぬかれることはできない。
 粛然とさせられる。


        


 艾沢詳子「無辜の民 ’08」。
 コラグラフ(版画)と、床置きのインスタレーションから成る。

 本郷新の「無辜の民」がそうであるように、床の作品は、横たわる人物のようでも、ひつぎのようでもある。




 ちり紙に打たれた小さな点はすべて手書き。この作業量を思うだけでも気が遠くなりそう。
 何千枚あるのだろうか。
 それを、ひねったりよじったりして形を整えてから、てんぷらのように揚げている。
 細長い紙はシュレッダーから出たもの。

 ただ、今回は全体が白っぽいせいか、死者という感じはあまりしなかった。
 膨大な日常の営みの果てにある再生。そんなイメージを抱いた。




 最若手の下沢敏也「Re-birth:風化から…」。
 これまでの彼の作品に比べ、やや背が高くなった。そのぶん、どこか立像を思わせる。
 風化するもの、朽ちていくものに興味がある-という下沢さん。
 彼も、長い年月の間に風化と成形をくりかえす土に触れながら、人間の生と死をたえず思ってきたのではないだろうか。
    
        

 古代文字が書き連ねてあるような表面がおもしろい。
 偶然のなせるわざのように見えるが、作者の手になるもの。といって、火の作用による偶然が必ず入るのも陶という素材ならではだ。


08年7月19日(土)-27日(日)10:00-18:00(最終日-17:00)
コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下)

●鯉江良二器展=7月19日(土)-27日(日)11:00-19:00(最終日-17:00)、ギャラリー門馬(中央区旭ヶ丘2)

交差する視点とかたち 川上力三・阿部典英・下沢敏也(07年7月)

SCAN DO SCAN(07年10-12月)
企画展「07→08」(画像なし)
WAVE NOW 06(阿部さんが参加)
北海道立体表現展(06年、画像なし)
阿部典英個展(2002年)
北方圏美術展(2002年、阿部さんが参加)


艾沢詳子「無辜の民'07 冬音」(07年12月)=□関聨のページ(STVエントランスアート)
艾沢詳子 闇のシナプス(07年5月)
06年の「北の彫刻展」 (画像なし)
03年の「札幌の美術」
02年の版画、ドローイング展(画像なし)
01年のドローイング展(画像なし)


下沢さんのサイト

「響韻と、在る。」石川亨信さんとの2人展(08年4月)
07年4月の個展
田村陽子さんとの2人展(07年1-2月)
下沢トシヤ陶展(06年12月)
西本久子さんとの2人展(06年1月)
下沢トシヤ陶展(04年6月)
北海道立体表現展(03年)=阿部、下沢両氏が出品
下澤敏也・多田昌代2人展(03年、画像なし)
下澤敏也・多田昌代2人展(02年、画像なし)


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