ガリバー通信

「自然・いのち・元気」をモットーに「ガリバー」が綴る、出逢い・自然・子ども・音楽・旅・料理・野球・政治・京田辺など。

「母べぇ」を観た。

2008年02月14日 | ファミリーイベント
 バレンタインデイに、山田洋次監督、吉永小百合主演の「母べぇ」を家人と二人で近くのシネコンに車を走らせて鑑賞した。

 夕刻の上映時間にも関わらず、観客は中年夫婦と思われる三組と若い男性の一人、計七人だけであった。

 上映時間前に観客席に入り「貸切状態」だと思ったのだが先客がおられ、偶然にも良く知っている近くに住むご夫婦がおられて、「日頃は近くにいてもめったに会わないのにね」とお互い苦笑しながらの鑑賞であった。

 テレビの芸能ニュースでは、山田洋次監督と主演女優、吉永小百合さん、助演男優の浅野忠信さんがドイツのベルリン国際映画祭に出席のために、この「母べぇ」を持って出かけている時に、私たちは観る機会を得たのである。

 正月明けに観た「続三丁目の夕日」とは違った日本の原風景としての、昭和十年代の戦争へ突き進む「帝国日本国」の状況下で、「治安維持法違反」の罪で夫のドイツ文学者を逮捕された妻佳代が、吉永小百合の役であった。

 つつましげに夫の無実を信じて、二人の女の子の成長を楽しみにしながら頑張っている吉永小百合の家に、坂東三津五郎演じる「野上滋先生」の教え子、山崎徹として浅野忠信がやってきて、何かとこの家族の世話をやくのである。

 そのうち、夫滋の妹野上久子を演ずる壇れいが加わり、まるで夫のいない家庭なのに、楽しげな一家団欒の家庭の様な毎日が続くのである。

 実は、浅野忠信演ずる山崎徹は、「母べぇ」こと野上佳代に好意を持っていることを、義妹の「チャコちゃん」は気づいているのに、母べぇは夫への変わらぬ愛情に満ち溢れているのである。

 戦時下の「贅沢は敵」「お国のために」全てをささげることを強いられた時代に、シナ事変と称された「日中戦争」を「聖戦」とは呼べない野上滋は、なかなか釈放されることがなく、「非国民」のレッテルを貼られて、佳代の父である警察署長もたびだび父として佳代に警告を発する。

 とにかく「三丁目の夕日」に描かれた貧しくとも、復興の兆しが見え、どんどんと街が元気になって行く昭和30年代以降の時代背景とは全く違う、暗くて重苦しい時代の中で、代用教員をしながら初子と照代という女の子を女手ひとつで育てていく「母べぇ」を演ずる吉永小百合は、やはり美しい。
 
 戦後生まれの私たちにとって、戦前、戦中の重苦しい時代の実感はないが、どんな時代にも「心から信ずる気持ち」を大切に、つつましくても「家族の絆」を大切に生きる、日本人の姿を、山田洋次は描きたかったのだろうと納得した。

 美しい野上佳代を演ずる吉永小百合が戦中に獄中の夫、滋を亡くしてもなお子育てに生き、戦後子供たちに看取られて亡くなる場面には、実母のことを思いながら涙をこらえることは出来なかった。

 映画鑑賞後自宅に戻ると、91歳の実母から「あんた元気にしてるか?」「大丈夫か」と電話があった。

 
 

 

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