群馬県水上町の山中に「工房澄み処(すみか)」を立ち上げ、伝統的な町家建築の技法を踏襲する大工、山口修嗣という友人がいる。彼が主宰する「澄み処の風コンサート」が20回目を迎えた。ボクは2回目の19年前に初めて行った。グラスアルファで演奏するのは10年以上のご無沙汰。ハーモニカの松田幸一、バンジョーの坂本健、ギター奥沢明雄、ベース河合徹三。知る人ぞ知るラストショーの面々。かぐや姫、泉谷、アリス、イルカ、中島みゆき、高田渡、高石ともやらとセッションをしてきた連中である。安定感がちがう。こっちが少々ボロボロでも何だったら弾かなくてもかまやしねぇ。たしかに画像を見てもオレだけ肌合いがちがうわ。
水上界隈は有名な温泉地。ひなびたかけ流しの「諏訪ノ湯」という温泉に3百円払って入った。石鹸がモロモロになるほどのお湯だ。空気は旨いし、野菜はそこらじゅうで新鮮なのができる。チーズも家畜のヤギのモッツァレラチーズ…これが健康でいられるかというと、棟梁山口くんのように腸不調というヤツもいて、ま、早い話、飲みすぎなのであるが。
上毛高原まで送ってもらい別れ、上越で一路東京へ。ここはゆっくり飲み食いするために帰りを夜行バスにしたのだ。目指すは銀座。一挙に田舎から都心、聖から俗へ。
銀座コア裏あずま通りにある「新富寿司」。ここを訪れるのも久々である。丁度、小肌の新子のシーズンだ。この小さなヤツを江戸っ子はひときわ好んだ。握り寿司の原型がこの小肌の寿司なのだ。出始めの新子なら2匹、3匹づけで握る。ありゃあちょっと可哀相なもんだが。非常に上品だ。スミイカの新子、新イカも出ていて、これがまた小さくて、赤ん坊の頬っぺたを齧るような柔らかさなのだ。すずきの昆布〆も夏だなぁ。嗚呼やっぱりようがすな。酒は冷やから始めて、人肌切り替えた。
さらに俗にまみれるため、新宿へ河岸を変えて、バーで仕上げ。サントリーバー「イーグル」。足が遠のいて20年以上。昭和42年から続く新宿では老舗だ。ちょっと気取った風もまたよくてベテランのバーテンの対応、居心地の良さは変わらない。角ハイボール・ダブルを2杯。ここはフードも美味くて、野菜スティック胡麻味噌添え、かに味噌バター。
このカウンターにいると新宿の変貌ぶりも全く気にならなくなってくる。山手線の線路をくぐって西口の方に行くと、小便横丁の風情がかすかに残っていて、新宿の俗っ気がなかなか好ましく思えてきた。