河北新報 社説
東日本大震災 森林の除染/現実的で有効な方法を探れ
福島第1原発事故で、
放射性物質が除染の基準となるレベル(毎時1マイクロシーベルト以上)まで蓄積した地域は、
福島県の面積の7分の1に当たる約2千平方キロを超す可能性があるという。
東京大の森口祐一教授(環境システム工学)が、
政府などが公表した放射線量の分布地図を基に試算した。
このうち7割以上は、山間部を中心とした森林が占める。
生活圏の除染も多くの困難を伴うが、森林の除染はそれ以上に厄介だ。前例もない。
旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故では、
住民の立ち退きに重点が置かれ、森林の除染は行われなかった。
「除染は事実上不可能」と主張する専門家もいる。
しかし放置すれば、放射性物質を含む水が流れ出ることなどによって、
森林が汚染源となり続ける恐れは否定できない。
市街地などのように全ての地域で土壌の表層を除去するのは、
森林の特性や面積があまりに広大なことを考慮すると、現実的ではないだろう。
ただ、住民の帰還の障害にならないためにも、
居住地や水源地の近くでどう対処するかは喫緊の課題だ。
有効な方法を早急に見いださなくてはならない。
政府が8月末にまとめた除染基本方針では、
森林について「面積が大きく膨大な除去土壌等が発生する」と指摘。
検討を継続するとして、具体的な方法は打ち出さなかった。
森林は樹木上部の葉が集中する部分(樹冠)の表面積が大きいため、
放射性物質は木の葉に付着しやすい。
葉が落ちてできる腐葉土に蓄積される傾向が強いとされる。
このため、
枝葉の除去や腐葉土を取り除くことで一定の除染効果が期待できると考える専門家は多い。
一方で、腐葉土を除去すれば保水をはじめとする
森林の多面的な機能が失われるとの見方もある。
除去が広範囲で、集中的に必要な場合、森林機能維持への配慮も必要となろう。
除染が手つかずの状態の中、
林野庁はようやく、福島県の森林全域での放射性セシウムの空間線量、
土壌濃度の調査に着手した。汚染状況を正確に把握し、
森林をどう扱うかの基礎的な資料にする狙いだ。
福島第1原発から80キロ圏内は4キロ四方、圏外は10キロ四方の区画に分け、
各区画1カ所、計400地点で計測する。
空間線量は地上1メートルで測定、土壌濃度は地表から深さ5センチまでの土を採取する。
落ち葉や腐葉土のサンプルも集める。
資料収集は10月いっぱいをめどに終え
、分析に移りたい考えだ。結果は今後の除染の優先順位の決定や、
住民の被ばく防止策などに活用する。
森林はとにかく広い。除染は生活圏に近く、線量が高い所を優先的に行うことになろうが、
どんな手法、手順で進めるかは手探りの状態が続きそうだ。
森林の除染に長い期間と膨大な労力、コストを伴うのは避けられない。
少しでも早く、着実な効果が期待できる現実的な方法を模索してもらいたい。
2011年09月22日木曜日
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