第六章 地域との距離がさらに近づいた盗難事件 |
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'06年5月14日に農機具の盗難事件が発生した。鍵やチェーンで厳重に管理された倉庫からポータブル発電機、ミニ耕うん機『こまめ』、芝刈機など多くのHonda汎用製品が持ち去られた。
ポータブル発電機は電動チェーンソーや電動ノコギリなどの作業をはじめ、スタッフの携帯電話の充電に至るまで、まさに農園のライフラインだった。 |
『こまめ』などの耕うん機がなければ、畑を耕すこともままならず、作業もはかどらない。
各福祉団体の人々が集う広場の芝も荒れ放題ということになってしまう。
「『福祉農園』の看板を見どんな人が働いているかわからないはずはないのに…。
心無い窃盗に怒りと不安を感じました」(福祉農園・猪瀬良一代表)
しかし、この難事件は意外な波及効果を及ぼした。新聞報道等で、事件を知った地域の農家などから、農機具などの援助の申し出が後を絶たなかったのだ。
「専業で農家をやっていらっしゃる方が、わざわざ機具を貸してくださると申し出てくださったり、Hondaも『こまめ』を提供してくださった。こうした好意は、本当に涙が出るほどありがたく、結果として『我々は周囲のサポートに支えられているんだ』と再確認できた出来事でもありました」(同) |
そしてこの事件をきっかけに、地域との新たな関わりも生まれた。新聞報道で事件知った地元のロータリークラブから「盗難に遭った農機具のいくらかの分でも援助をしたい」という申し出があったのだ。だが、猪瀬代表はその申し出を断ったという。
「完全に元のままというわけにはいかないけれど、Hondaや地元の農家の援助もあり、作業ができる環境はある程度整いました。それよりも畑を一緒に耕してくれる地元の仲間の方が大切。『お金のことはいいから、一緒に耕しませんか?』と、ロータリークラブの方を農園にってみたんで」 ほどなく、ロータリークラブの会員が毎週のように福祉農園を訪れるようになった。浦和北ロータリークラブの古澤建治さんは、その経緯をこう語る。
『とに汗を流そう』という代表のお誘いは、まさに『望むところ』でした。
いま、子どもや孫の世代は、“土地”とか“土”という概念がない。
生産者農家さんや農作物への感謝の気持ちを伝えようとしても、実感として伝わらない。ならば、自分でまず土をいじるところから始めてみようかな」と古澤さん。
今では農園の一角に、ロータリークラブ用の農機具の倉庫も設営された。
2007年初夏に、福祉農園で行われた芋掘り会にも、ロータリークラブから70名ほどが参加した。 地域に根ざす福祉園の地盤は、今もしっかりと耕されているところだ。 |
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